ピークオイルとは何か?

概要

原油の採掘しやすさは一定ではない。埋蔵量が多く採掘が容易な油田が最初に採掘され、技術的・政治的・経済的に採掘が困難な場所にある油田が残るため、世界全体の原油生産量は最大値を取った後減少していく山型のグラフを描く。生産量が最大となる時点をピークオイル(石油ピーク)と呼ぶ。ピーク後、原油供給は需要を満たせなくなるため価格の変動が大きくなり、経済に悪影響を及ぼす。

ピークオイルとは何か?

原発問題などでエネルギー問題に関心のある人にとっても、たぶんピークオイルという概念はなじみが薄いでしょうから、一度ここで解説をしておきたいと思います。

さて、一般的なイメージでは、地中の原油は巨大な石油タンクのようなもので、人間はそのタンクから原油を汲み出していると捉えられているようです。

この概念モデル(原油タンクモデルと呼びます)における埋蔵量と生産量の関係は以下のように考えられています。すなわち、タンクから原油を汲み出す速度は一定なため、原油が残っている限りは一定の速度で原油を生産できる。そして、残存する原油がカラに近くなったとき、原油が「枯渇」し生産が不可能になると考えられています。

下記の図が、原油の残存量と生産量の一般的なイメージを表現したグラフです。

 

生産量一定の場合の生産量と埋蔵量のグラフ
生産量が定常(原始埋蔵量の10分の1)であると仮定した場合の残存埋蔵量と生産量

ところが、現実の世界における原油の生産は、原油タンクモデルとは全く違った経過を取ります。

例えて言うなら、地中における原油は、よく振った瓶の中にある炭酸飲料のようなものです。しかも、その瓶の底には割れた瓶のカケラが沈んでいるとイメージしてください。そして、大きさの違う炭酸飲料の瓶が、世界中のさまざまな場所に散らばって存在していると考えると、実情に即しています。

最初、必要なのは瓶にストローを指すための穴を開ける力だけです。気化している炭酸ガスの圧力によって、勢いよく飲み物が吹き出してきます。この段階では、原油の採掘に必要なエネルギーはほとんどゼロです。瓶の中の圧力が高い限りは、新しいストローを指し続ければ生産量は増加していきます。

しかし、地中から原油を取り出し、炭酸の圧力が低下していくに従って、噴出する原油の量は低下していきます。ついには、圧力が低下し噴出は止まってしまいます。

さてここで、世界中で発見された油田がまだ少ないのであれば、石油会社は油田を放棄して別の場所にある若い油田を開発するという選択肢を取ることができます。しかし、もしほとんどの油田がもう開発されているのであれば… 石油会社はそこに留まらざるを得ません。そこで、石油会社は空気や水を油田に送り込んだり、火薬を爆発させたりして、地中の油田の圧力を増加させることを試みます[1]
この方法を使っても、時間が経過すると生産量は低下していきます。もはや、生産に要するコストが高すぎるため原油を採掘することはできません。炭酸飲料のモデルを使うなら、瓶の底に存在するガラスのカケラが多すぎて、もはや経済的に見合う方法ではその間にある炭酸飲料を汲み出すことができないのです。

確かに、この時点でもある程度の量の原油が残っていることは事実です。しかし、回収に要する(技術的・金銭的・エネルギー的な)コストが高すぎるので、もはや採掘することはできません。この段階まで来ると油田は放棄されます。

「油田の採掘が段階的に困難になっていく」という前提を踏まえて、グラフを描いてみましょう。ある油田の採掘の過程において、産出量と残存埋蔵量を描いたものが下図です。

 

生産の困難さが増加する場合の埋蔵量と生産量
生産量の困難さが採掘を進めるに従って増加する場合の残存埋蔵量と生産量

ここで重要なことは、ある油田の生産量がピークを迎えた時点、つまり生産量が最大になる時点においても、まだ油田の埋蔵量は十分に残っているように見えることです。
しかし、前述の通り、この時点で残っている原油を採掘するのは、技術的に困難です。ですから、油田が枯渇し切るよりずっと早く、ある一定時間に採掘できる原油は減少していきます[2]
油田が生産量のピークを迎える時期は、埋蔵量のおよそ半分を過ぎた時点であるとされています。

そして、世界全体の原油生産量の和を取ってみても、これと似たようなグラフになると考えられています。

なぜなら、原油は、よく知られている通り全ての国の地下に均等にある訳ではありません。そして、石油会社自体も営利会社であるので、最初は技術的・地理的・政治的に採掘が容易な場所にある油田から採掘を始めると考えられるからです。そして、採掘を進めれば進めるほど困難な場所にある油田が残されていく、という過程自体は世界全体を見ても変わりがありません。

世界の生産量がピークを迎えた時期にも、まだ世界全体では半分程度の埋蔵量が残されている、と予想されています。しかし、やはり世界全体でも1つの油田と同様のことが起こります。この時点で残っているのは、前述の通り技術的・地理的(規模の小さい油田や深海の海底油田)に採掘が困難であったり、あるいは政治的(紛争地帯など)に困難な場所にある油田だけです。ですから、世界全体の原油生産量の和をとってみても、このような曲線を取ると予想されています。

原油供給がピークを迎えると、世界の原油需要を満たせなくなります。統計上、まだ原油は豊富にあるように見えますが、ほとんど全ての油田が生産能力をフルに使い切っています。この時点で、原油価格は高騰しますし、またわずかな供給の不安(原油埋蔵量が多い地域での政情変化)や、需要の伸び(新興国の成長)で価格は大きく変動することになります。

その時がピークオイルです。

(続きます。原油生産量の現状)



脚注

  1. これは石油産業において二次回収と呼ばれる過程です。 []
  2. そのため、この過程は枯渇 run out ではなく、減耗 depletion と呼ばれています。 []