経済成長のために十分なネットエネルギーは存在しない

本文は、クリス・マーテンソン氏による “The Really, Really Big Picture – There isn’t going to be enough net energy for the economic growth we want“の翻訳です。

前文

[編集者による原注: 長年のクラッシュ・コースのフォロワーの方々から、マーテンソン氏に対して、近年のシェールオイル・シェールガスの増産という新たな光を元に、ピークオイルに関する予測をアップデートしてほしい、という要望が寄せられています。最初、この調査はちょっとした仕事として始まりました。しかし、マーテンソン氏は大量の新しいデータを調査し、最終的には長大な3部構成の論文を書き上げました。そして新しいデータを加えても、人類はグローバルなネットエネルギーの危機に直面している、という結論に変化はありません。 -- 私たちに真逆の結論を信じさせようとしている、見当違いのメディアの努力にも関わらずです。
このレポートは、今後数週間の連載として発表される予定です。最初の部分は、以下の文章です。
]

近年のシェールエネルギーによって、アメリカ合衆国は世界エネルギー見通しに対する真のゲームチェンジャー[1] となったと宣伝するために、強力で集中した広報活動が展開されています。これらの報道はデータを正しく読めておらず、一般大衆およびエネルギー機関両方が抱える現在のリスクと将来の見込みに対する多大な誤解を招いています。世界は絶望的なまでに石油依存体質のままであり、そして未来は欠乏状態によって形作られるでしょう — 一部の人々が主張している豊富さによってではありません。

この一連のレポートは、関連するデータをシンプルで理解しやすいストーリーにまとめたものです。そして、議論を始め決断をするために、有意義なスタート地点となる十分な背景知識を含んでいます。

オリジナルのクラッシュコースは2008年10月に完成しました。そして、金融緩和、人類の直面する主要な困難に対する当局者の無関心、そして石油コストの上昇 (2012年に年単位での史上最高価格を記録) など、多くのことが私の予期した通りに進んでいます。

液体燃料の生産がより一層高価で困難になっていくという大きな傾向は、当時と変化していません。この主張が最近のほぼ全てのニュース記事と矛盾しているということは、私も理解しています。今こそ、誇大広告からデータと事実を分離しなければなりません。最近の、あいまいであるか歴史的文脈から大きく外れている多くの報道は、理解の補助になるものというよりはむしろ理解を歪めてしまうものです。

この分析の内容全体は非常に多岐に渡るため、3つの部分に分割されます。

最初の部分は、概論的な世界の石油生産見通しであり、ここではマクロな全体像を提示します。そして、いくつかの必要な用語の定義を明確にし、全てのデータは世界の石油生産が停滞しつつあるという理解の元に構成できることを示します。ここで指摘しておかなければならないことがあります。主要エネルギー機関の将来予測、IEA, EIA, BPと、そしてハーバード大学の後援による理解し難いほどずさんな報告書(2012年のマウゲーリ氏による報告)の全てが、新発見の非在来型石油によるネットエネルギーの低下に言及していないということです。これは、致命的な見落しです。

2つ目の報告では、アメリカ合衆国の天然ガスに焦点を絞るつもりです。特に、シェールガスに、最近多くの記事を目にし、エネルギーの方向性を転換させてしまうとみなされている資源に重点を置きます。シェールガスは、全体のストーリーに対して重要な寄与をしていますが、しかし結論としては、今後100年間使える魔法の燃料はどこにも存在しないということです。2013年初頭、シェールガスの生産コストは販売価格を上回っており、また、 –将来の消費量増加を含めるならば– およそ20年から30年分の確認・可採埋蔵量しか存在しないでしょう。そして、20年から30年間シェールガスを利用できるのは、現在のサーム[2] 当たり3.3ドルの市場価格から、2.5倍かそれ以上に上昇した時のみに限られます。

3番目では、タイトオイル、シェールオイルとも呼ばれている資源に焦点を当てます。 (オイルシェールと混同しないように。非常によくある間違いです。) そして、主張はこれまでと同様です。シェールオイルはピークオイル論にいくらかの変更をもたらすかもしれませんが、世界の石油産出量が年2%増加していた輝かしい時代へと回帰させるものではない、と述べたいと思います。

これら3つのレポートから、以下の結論を導くことができます。新たな負債を作り出そうという世界中の全ての試みは、単に失敗に終わるでしょう。なぜならば、借金に必要不可欠なネット(正味の)エネルギーは存在せず、実質的な生産量よりも数倍も早く成長する負債の蓄積を支えられないからです。

財政における数多くのリスクは高まり続けています。そして、現在の世界のエネルギー問題に目を背け続ければ、不可解で恐ろしい真実に直面しなければなりません。結論としては、私たち個人、企業や国家としてのレジリエンス[3] は、警告サインを真剣に受け止め、自身の生活と習慣を現実の状況に適合させられるかどうかにかかっています。

本当に、本当に大きな全体像

本当に大きな全体像は以下の通りです。「人間は、石炭、石油と天然ガスの形で、約4億年分の価値がある太陽光の貯蔵庫を発見した。そして、人間は、化石燃料という天然の財産ほぼ全てを、ちょうど300〜400年で焼き尽くしてしまう技術を開発した。」

常に必要な化石燃料が採掘可能だという誤った仮定のもとに、私たちは経済、貨幣、そして永続する豊富さに対する雑多な信念体系を形作ってきました。それに加えて、人類の人口は2050年までに90億人にまで増加すると予測されています。

2つの数字を覚えておいてください。1つ目は22, もう一つは10です。過去22年間、過去に消費された全ての石油のうち、およそ半分の量が消費されました。これは、指数的に増加する需要が持つ自然な性質です。そして、過去22年間に消費された石油は、それより30から40年前に発見された、採掘が簡単で安価な石油でした。ここから、10という数字を導くことができます。

私たちの食卓に届く食料の1カロリーごとに、10カロリーの化石燃料消費が消費されています。そして人類は、食料として届けられるエネルギーよりも多量のエネルギー消費を必要とする、歴史的に例の無い近代的農業と食料輸送システムを作り出しました。いつかは、化石燃料は無くなるでしょう。それははるか未来のことかもれしませんが、その日に備えるためには、私たちの時間の全てを必要とするでしょう。 (そして、将来のためその日に備える”べき”だ、と主張する人も居るかもしれません。)

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図1. 石油と人類の歴史

現在の石油は、地面から絞り取られ、水圧破砕され、あるいは高価な方法で採掘されています。そういった高価な石油の増産に関する声明が、常に「まだ石油はたくさんある、心配することは何も無いんだよ(少なくとも、今はまだ)」というメッセージを伴なっていることに、私は苛立ちを覚えています。これらのメッセージは、未来の世代に対して問題を先送りにしても問題はないと主張しているように聞こえます。未来の人々は、少なくとも私たちと同程度には賢いはずだから、彼らは石油枯渇という問題にうまく対処できるだろう、というわけです。

そうではなく、ある程度長期の時間軸においては、化石燃料の時代は一時期に集中しており歴史的にはごく短いものだということが上記のグラフから分かります。真の問題は、「石油は枯渇するか?」ということではありません。「私たちはこのグラフのどこに居たいだろうか? そして将来、最終的に石油が枯渇したといき、未来の姿はどのようなものであるべきだろうか?」ということです。
「枯渇するか?」という疑問に対しては、「現状維持」が正しい答えであるかのように思えます。しかし、後の疑問を考えるならば、人類にたった一度だけ贈られた化石燃料という遺産を、正しく賢明に投資しなければならないということが言えます。

エネルギーは、現代経済と安楽な近代的生活に対して必要不可欠のものです。エネルギーが無ければ、経済活動は存在しません。エネルギーがより高価になれば、私たちの経済活動は、他の事業や活動を犠牲にして、エネルギーを得るために専念しなければなりません。
さまざまな形のあるエネルギーの中で、石油は輸送用エネルギーの王様です。そして、グローバル経済と日常生活に必要不可欠のものです。

何が技術と生活水準の爆発的向上をもたらしたのでしょうか? 私にとって、答えはシンプルです。エネルギーです。

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図2. アメリカ合衆国における1人あたりのエネルギー使用量

社会の中で大多数の人々が、もはや長い時間を要する肉体的労働に束縛されていません。つまり、自身の食料栽培、住居の建築や燃料採取などです。多くの人々には、より知的な他のことをするための自由な時間があります。たとえば、人生を技術の進歩に捧げるといったことです。

エネルギーが、経済的・地質的な理由によって入手困難になったら、その時には人々はより基本的な仕事に立ち返らなければなりません。たとえば、燃料用の薪を採取することです。

ギリシャ人、暖房用の薪のため森林を違法伐採

Jan 11, 2013 ギリシャ、エガリオ

凍える夜中のパトロール中に、環境保護活動家のGrigoris Dourdomichalis氏は、アテネ北部の共有林で薪を違法伐採する若者を捕えた。

逮捕された時、男は泣き崩れた。自分は無職であり妻と4人の小さな子供が住む家の暖房用の薪を必要としているのだ、と彼は語った。

「難しい決断でしたが、私は男と薪を釈放することにしました。」と、アテネ市環境団体のリーダーであるDourdomichalis氏は語った。アテネ市環境団体は、ギリシャの首都西に位置するエガリオ周辺において森林保護に取り組んでいる。

この冬、ギリシャ中の公園や森林地帯における何万もの森林が消滅しました。と当局者は語った。(後略)

暖房用に森林を切り倒しているギリシャ人たちは、同時に次世代技術の開発業務には従事できないだろうと考えても、おそらく正しいと思います。「始めにエネルギーありき」であり、全てのものはそれからなのです。言い換えれば、私たちの感じる繁栄と幸福のどちらも、エネルギーから派生しているのです。

豊富な食料を与えられた他の生物と同じく、–ただしこの場合、食料、移動能力、住居、暖房やありとあらゆる消費財として変換された石油を通じて– 人類は、驚くべき指数的人口成長を始めました。

生活基盤を保証するさまざまな自由と共に、人類は貨幣と経済システムを作り出しました。そして、それらの経済システムの機能と存続は、全面的に永続的成長に依存しています。それらのシステムが維持されているのも、エネルギーのおかげなのです。

繰り返しておきましょう。「エネルギーだけが重要なのではない。ネット(正味)のエネルギーが重要なのだ。」ネットエネルギーとは、全エネルギーのうち発見・生産に必要なエネルギー量を引いたエネルギーのことであり、エネルギー生産以外の複雑で知的な社会活動のために利用可能なエネルギーのことを指します。全世界のエネルギー産出量の停滞だけが問題なのではありません。新規の非在来型燃料は、ネットエネルギーが劇的に小さいという点も問題となっているのです。

私たちが今居る場所の3枚のシンプルなグラフ

現在大きく宣伝されている物語として、以下のような話があります。シェールガス、シェールオイルは、真のゲーム・チェンジャーであり、予想しうる未来においてエネルギー資源については何も心配する必要はない、と。合衆国の石油生産量はすぐにサウジアラビアを追い抜き、エネルギー独立国になることができる、そして、莫大な量の天然ガスが存在するのだから天然ガス輸出ターミナルを建設したほうが良い、100年分の天然ガスがまだ使用されず残っているのだから、と主張する物語があります。

不幸なことに、これらの一つとして真実ではありません。ここでは、私の主張を3枚の図表を使って裏付けしておきましょう。

最初のグラフは、EIAの名誉理事であるスウィートナム氏によるものです。彼はEIAの元理事でした。

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図3. 世界の液体燃料供給

このグラフは、2009年時点における全石油採掘プロジェクトから推定された衰退率を示しています。(つまり、このグラフは近年のアメリカにおけるシェール「革命」のデータを含んでいません。しかし、これはすぐ後で議論したいと思います。) そして、2012年現在から2030年までに、原油生産量は日産8500万バレルからわずか4500万バレルにまで落ち込むことを示しています。つまりは、日産4000万バレル(bpd)が消滅するだろうということです。しかし、更に悪いことに、石油需要は成長し続けると予想されているため、2030年には需給ギャップは6000万bpdを超えると考えられています。

この値は大きすぎるように感じられるかもしれませんが、しかし、4.08%という生産量の推定減退率は、専門家による予想の中間値でしかないということを心に留めておく必要があります。減退率は6.5%にも達すると推定している専門家も居ます。そして、もしこれが本当であるならば、生産量の減退と需給ギャップは更に拡大するでしょう。

グラフ上部の線は、石油需要の増加予測を示したものです。この予測は、現状の歴史的成長率が維持されるとの仮定のものに描かれています。モデル化された石油の需要と供給量の間の不足は日産6000万バレルです。(原注 元の図では4300万バレルとなっていますが、文章中では訂正しています。)

合衆国のシェールをここに当てはめてみると、EIAは米国内のシェールは、2020年に最大で日産300万バレルに達すると予想しています。バカにはできない量ですが、それでも予想されている日量6000万バレルの不足を補うにはとても足りません。

2つ目にお見せしたいグラフは、過去12年間の全世界原油生産量を表したものです。

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図3. 過去12年間の全世界の原油生産量

2004年から2012年の間、全世界の原油+コンデンセート[4] の供給量は、たった5%の狭い幅の中に収まっています。

また、2004年における原油の平均スポット価格 (原注: ブレント原油価格を”世界の原油価格”の代表例として用います) は、1バレルあたり38.35ドルでしたが、2012年のスポット価格の平均は111.63ドルに、つまり2004年の価格の2.9倍にまで上昇しています。

3倍近い価格上昇にもかかわらず、世界の原油供給量は平坦な状態のままになっています。経済的に言えば、こんなことは起こりえないと考えられています。何かの価格が上昇した際には、供給者は高い価格に反応してより多くを市場へ供給し、それによって価格は安定すると考えられているからです。しかし、過去8年の石油価格上昇の際には、これは起こりませんでした。つまり、世界の石油供給は、予測されていた通りに、市場原理とは別の何かによって制約されていると言えます。

そこで、世界の石油生産プロジェクトに対する支出額のグラフを見てみましょう。

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図4. 過去12年間の石油生産プロジェクトに対する支出額

全世界の原油生産量が5%程度の範囲でゆらぎながらも平坦になった期間において、何が起こっていたでしょうか?
全世界の石油開発プロジェクトに対する支出は倍に跳ね上がり、3000億ドルから6000億ドルにまで達しています。石油産業による100%の設備投資増加にもかかわらず、石油の供給量はある程度変動しながらも、ほぼ同じところに留まり続けています。年間6000億ドルという途方もない金額が費やされ、また人々がそれほどの資本を最も実現可能なプロジェクトに捧げているということに驚きを覚えます。ここで、もう1つの仮定を置きます。プロジェクトが設立され目標が追求される際に、可能な限り素早くプロジェクトの目的が達成されると考えます。「私たちは、以前と同じだけのものを得るために、より多くを費やさなければならない、少なくとも、今のところは」。これ以外に、上記のデータを解釈する方法があるでしょうか?

もし、全世界の石油価格が110ドルを超えている理由を知りたいと思うのであれば、上記の2つのグラフがその答えです。皆に行き渡るだけの十分な量の石油が存在していないのです。

さまざまな努力と費用にも関わらず、世界の石油取引量は全体の生産量に対してほぼ一定のままです。その理由は、最初のグラフにあります。既存油田の減退量を相殺するほどの速さで、素早く新規の生産プロジェクトを開始しなければならないという競争が始まっているのです。

石油問題は、アメリカだけの問題でもなければ、特定のある国だけの問題でもありません。石油はとてつもない重要性を持つグローバルな商品です。シェールエネルギーの開発は、アメリカ国内では重要な役割を果たすでしょうが、しかし停滞している石油生産量のグローバルな力学を変化させません。 — 少なくとも、世界の石油供給量グラフからは検出できません。今のところは。

(第一部の)結論

第二部: エネルギー問題はどうやって財政危機を引き起こすのか?」では、最新の世界の石油需給に関するデータを提示し、安価な石油は消滅したということを示します。

私の予想では、アメリカと世界各地における増産の試みと、その裏にある石油生産量減耗率との戦いは、すぐに行き詰まるでと考えています。最終的には、ドロ沼に沈んでいく悲劇の英雄的な戦いとなるかもしれません。

定常的に上昇するエネルギー価格と減少するネットエネルギー産出によって、将来の経済成長と先進国が依存する(そして発展途上国が熱望する)浪費的なライフスタイルは、単に不可能なものになるでしょう。実際、私たちが過去数年間に渡って経験した世界経済の不調は、供給制約が成長へのネットエネルギーを減少させた場合、起こることが予期されていた症状なのです。

もし、将来の経済情勢、自身(と子供)の生活水準、そして生活の質を気にかけるのであれば、成長とネットエネルギーの間の関係を完全に理解しなければなりません。あなたの個人的な(そして、私たちみんなの)未来は、その理解にかかっています。

レポートの第二部へはこちらから。(サマリは無料、全文のアクセスには登録が必要。)



脚注

  1. 訳注: 時代の流れを変化させてしまうもの []
  2. 訳注: ヤード・ポンドにおける熱量の単位で、100,000BTU(英熱量単位)を表す。1BTUは約250カロリー []
  3. 訳注: 危機からの回復力 []
  4. 訳注: 軽質液化炭化水素 []