原油生産量の現状

ピークオイルの現実

ピークオイルに関するモデルを前回のエントリで説明しました。今回はピークオイルについて現実の原油生産量の例で説明したいと思います。

最初に取り上げるのは、アメリカ合衆国の例です。米国の油田は歴史的に早い段階で開発されたため、ほとんどの油田で1970年代より前に生産量の減少(減耗)が始まっています。北米大陸(アラスカ州を除く)全体での生産量を示したのが以下のグラフです。

アメリカ合衆国における原油生産量(1860-2011)
アメリカ合衆国全体における生産量のグラフ。出典: U.S. Energy Information Administrationより著者による再構成

北米大陸における原油生産量は1970年代に最大を記録した後、一環して減少を続け現在まで1970年代当時の水準にまで回復していません。アメリカ合衆国はかなり広く、大小さまざまの油田が存在していました。だから、世界全体の石油生産量がこのような山型の経過をたどると考えても、それほど間違った想定ではないでしょう。

ピークオイルは既に起こった

では、世界全体の原油生産量を見てみましょう。以下が、世界全体の原油生産量です。

全世界の原油生産量(1980-2011)
1980年から2011年までの全世界の原油生産量。出典: U.S. Energy Information Administrationより著者による再構成

やや分かりづらいですが、2010年代後半における原油生産量はほぼ8000万バレル程度で横這いとなっています。
もちろん、世界全体の原油生産量は様々な要因によって決定されるため、前回のエントリにおけるモデルや、米国の産出量のように理想的な山型を描くとは限りません。
例えば、1970年代のオイルショックのように、産油国の政治的な意図によって生産量が一時的に制限されるということがあるでしょう。人為的な生産量の制限が長く続いた後では、生産量はピーク後すぐに減少せず、比較的平坦な状態がしばらく続く可能性があると考えられています[1]

それでも、前提となる2つの仮定、つまり、
1. 世界の原油埋蔵量は有限で、地質学的な年代の間にしか回復しないということ
2. 油田の開発しやすさは世界中どこでも一緒ではないということ

この2つの条件がある限り、世界の原油生産量がある時点でピークを迎え、その後減少していくという結論はそれほど変化しません。

2000年代の原油生産量と原油価格

そして、もう一つ興味深いグラフが存在します。下図は2000年代における、原油価格と原油生産量を示したグラフです。

 

200年代の原油価格と生産量
2000年代の原油生産量とWTI原油価格(インフレ調整無し)[2]

4年ほど前の原油価格の高騰は、まだ記憶に新しいところです。
一般的にはこの原油価格の高騰は、米国の住宅バブルの速度減少によって、行き場を失なった投機資金が資源へ流入したからだと認識されているようです。しかし、投機資金の流入だけでは説明の付かないことがあります。

まず、そもそもの話として、原油の供給に不安があるという認識がまず最初に無ければ、価格の高騰を招く投機が発生することも無いでしょう[3] 。少なくとも、市場は石油供給に全く不安を感じていない訳では無いと言えます。よく陰謀論めいた説では、「石油メジャーが供給を制限し価格のつり上げを狙っているのだ」、と説明されることがあります。しかし、世界の石油会社は決して一枚板ではありません。1970年代のオイルショック以前のような、世界全体の油田に対する支配力を失なっています。生産国であるOPECも一枚板ではないということは同じです。

そして、基礎的なミクロ経済学の教科書をひもとくと、こう書かれています。「商品価格の上昇は、その商品に対する需要を減少させ、供給を増大させるため価格を安定させる」と。しかし、2000年代中に1バレルあたりの原油価格は、20ドルから150ドル近くまでほぼ7倍にまで上昇したにもかかわらず、同じ期間の全世界の原油生産量は年間7500万バレル程度で、まるで天井にぶち当たったかのように増加していません。
もし、原油生産国だったり石油メジャーがそれほど「あくどい」のであれば、誰かが価格カルテルを抜け駆けしてシェアと売上の拡大を狙い出してもよさそうなものです。しかし、現実として過去10年間に起きた価格高騰の際には、原油の生産量は拡大しませんでした。

確かに、石油はまだ豊富にあります。しかし、過去数年の価格高騰にもかかわらず生産量が述びていないということは、現在では、少しの投資で生産量を即座に拡大できる訳ではないということを意味しています。既存の油田はその生産能力をいっぱいまで使い切っています。また、新しい油田は生産が困難な場所に存在しています。また、既存であれ新規であれ、今では油田開発に莫大な投資とかなり長い準備期間を必要としています。

すなわち、世界的に「余剰生産力」、つまり、世界の需要を満たす以上の原油を生産できる能力はほぼ尽きかけているのです[4]

もちろん、長期的に見れば新油田の開発も再生可能エネルギーの開発も進むでしょう。しかし、短期的な経済のサイクルにおいては、生産が追いつかない可能性が高いと考えています。ですから、地政学・経済上の出来事によって、原油価格は短期的には激しく上下します。それらの偶発的な出来事を予測することは困難ですが、長期的には原油価格は確実に上昇するパターンを取ると思われます。



脚注

  1. 生産を制限されていた油田がピーク後の減耗量をなだらかにするため []
  2. “Limits We are Reaching – Oil, Debt, and Others, “Our Finite World” []
  3. もちろん、価格の上昇が始まればそれを狙った投機も生じるでしょう []
  4. そして、2000年代中盤には実際に生産国の余剰生産能力が払底していた、とする論文もあります。 []