ニューディール政策と金没収

概要

フランクリン・ルーズベルト大統領は、ニューディール政策の実施前に米国内における金保有を禁止し政府が強制的に買い上げる命令を施行した。当時の米国は兌換紙幣制度を採っていたために、資産徴収という強制手段に訴えなければ財政出動を実施することができなかった。不換紙幣制度では政府が発行できる紙幣額に制約がないため、金徴収という劇的な政策を採らずとも紙幣増刷と財政出動が可能である。しかし、不換紙幣の増刷によるインフレも、民間の資産価値を強制的に政府へ移転させる効果は金徴収と同様である。

本文

16日に予定されている総選挙で、金融緩和とインフレーション・ターゲット政策が大きな論点として取り上げられています。何人かの識者が指摘しているように、これはインフレーションを通じて民間保有の資産価値を減じ、政府へ移転させるものです。これを端的に例証する事例が1930年代の大恐慌期におけるアメリカ合衆国に存在します。今日はそれを紹介したいと思います。

1930年代の大恐慌期に、当時アメリカ大統領であったフランクリン・ルーズベルトが、現在ニューディール政策と呼ばれている一連の積極的な財政政策を実施したことはよく知られています[1] 。しかし、ニューディール政策に先立って、ルーズベルト大統領が金(ゴールド)徴収という、ある種劇薬的な政策を実施したことはあまり知られていません。

1933年4月5日、大統領選出からおよそ一ヶ月後、ルーズベルトは大統領命令6102号を発令しました。その内容は、アメリカ市民が保有する金を政府に対して1トロイオンス20.67ドルで強制的に拠出することを命じ、更に、金による支払いを求める全ての民間契約を無効化するものでした。

当時、アメリカも含めた世界のほぼ全ての国は金本位制を採用していました。政府が発行する(いくらかの割合の)紙幣は、金によってその価値を裏付けされていました。つまり、政府が発行する紙幣の総額は、政府が保有する金の量によって制限されていたということです。そのため、積極的な財政出動とインフレ政策を実施しようとしても、政府が十分な金を保有していなければ不可能だったのです。

当時ですら私有財産権の侵害をもたらす命令は大きな反発を起こしたようですが、ルーズベルトは大統領としての強権を用いてこれを実現しています。その後、実に1970年代まで、米国内での民間人による金保有は禁止されていました。

翻って、大恐慌当時とは違い現代の紙幣は不換紙幣です。つまり、紙幣の価値は、例えば金のようないかなる実体的な物質によっても裏付けされていません。現代のあらゆる紙幣の価値は、ただその国の政府の「信用」のみに依存しています。そのため、紙幣の発行額は(原理的には)何にも制限されていません。

そうは言っても、政府が無制限に紙幣を発行するとインフレが生じます。インフレの効果は金の強制徴収より分かりづらいですが、結果は同様です。民間保有の資産の価値は減じ、その価値は政府へと移転することになります。この効果は税金なり金の徴収と同様です。

もちろん、あらゆる税金と同じく、インフレによる課税が全て悪であると主張するものではありません。インフラ整備、社会保障や外交・軍事など、市場では解決できず、社会の広い範囲から税金を徴収する政府でなければできないことは数多く存在します。インフレによる課税もそれと同じです[2]

しかし、インフレ政策はルーズベルト大統領が米国内で実施した金徴収と同様の資産の没収という効果を持つということ、そして、日本国政府がインフレによって得た利益を、私たちの未来に対して真に有用なことに使用してくれるのかを監視する必要がある、ということは、有権者一人一人が自覚しなければならないことだと考えます。

参考文献

通貨発行益は打ち出の小槌か – http://agora-web.jp/archives/1505581.html
アメリカと資本主義陣営の社会主義化 – http://www.millnm.net/qanda3/NDRSG.htm



脚注

  1. 後の世代の論者の立場によって、ニューディール政策の評価は分かれていますが今回は取り上げません。 []
  2. また、他国が積極的な自国通貨の切り下げを実施している時には、日本でも通貨の価値低下をやらざるを得ないということは否定しません。 []