クリス・マーテンソン『クラッシュコース』

目次

訳者による紹介
著者によるイントロダクション

第1章 『3つの信念』原文
第2章 『3つのE』原文
第3章 『指数的成長』原文
第4章 『複利という問題』原文
第5章 『成長と繁栄』原文
第6章 『お金とは何か?』原文
第7章 『お金の創造』原文
第8章 『中央銀行によるお金の創造』原文
第9章 『アメリカのお金の短い歴史』原文
第10章『インフレーション』原文
第11章『1兆はいくら?』原文
第12章『負債』原文
第13章『国家レベルの貯蓄失敗』原文
第14章『資産と人口動態』原文
第15章 『バブル』原文
第16章 『あいまいな統計』原文
第17章A 『ピークオイル』原文
第17章B 『エネルギー予算』原文
第17章C『エネルギーと経済』原文
第18章『環境』原文
第19章『未来のショック』原文
第20章『何をするべきか?』 – 原文



訳者による紹介

著者のクリス・マーテンソン博士は、ちょっと変わった経歴の持ち主です。彼は1994年に生化学の博士号を取得した後、ポスドク生活とMBA取得を経て、アメリカの大企業ランキングであるフォーチューン300企業のSAICに入社しました。彼はそこで副社長にまで出世したのですが、その後2002年ごろからの経済情勢の悪化をきっかけとして、仕事を辞職して独自に経済問題の研究を始めました。そして、現在彼はオンライン上で経済問題と社会の持続可能性に関する積極的な著述活動を行っています。この「クラッシュコース」は、マーテンソン氏の研究を通して生まれた、経済、エネルギー、環境問題の3つの観点から人類がどのような問題を抱えているのか、そして私たちは何をするべきなのかを解説しているオンライン講義です。

もともとのオンライン版は2008年の春5月から10月にかけて、ちょうどサブプライムローン問題の顕在化とリーマン・ブラザーズの破綻直前に公開され、アメリカで注目を集めました。オンライン版が好評だったためか、内容を刷新した書籍版が2011年に発売されています。

近年、日本においても国の財政・経済問題は熱い話題です。また、原発事故を発端としてエネルギー問題にも関心が集まっています。環境問題もややトーンダウンしたとはいえ、長い期間大きな問題であり続けています。しかし、経済、エネルギーと環境という3つの問題の本質を捉え、それらを結び付けている大きな原因をわかりやすく解説できる人がどれだけいたでしょうか?

これらの問題は、1つの分野に限ってもその全体像を捉えるのは簡単なことではありません。また、経済・財政問題、エネルギー問題も環境問題も、全てが道徳的な枠組みで捉えられがちな問題です。そのため、専門家の議論は反対の立場の論者に対する倫理的な非難と罵倒の応酬に終始してしまい、結局は普通の人が知りたいと思う問題の本質が分からないことがあります。

特にエネルギー問題については、反近代主義ゴリ押しの環境左翼のアジビラか、あるいは助成金を獲得したいだけの研究者の過度に楽観的な広告か、あるいは残念な陰謀論と終末論としか思えない非現実的な主張をしているものさえあり、個人的にはうんざりしていました。しかし、マーテンソン博士は科学者として、そして企業の実務家としてのバックグラウンドを最大限に活用し、エネルギーも含めた困難な問題の全体像を描き出しています。しかも、道徳的な善悪の判断におちいることなく、科学者らしく事実、事実から導かれる自分の意見、そして自分の信念とを区別し、あくまで事実に基づいて現状の社会システムの設計と動作、そしてその不具合を説明しています。

私はあるきっかけでエネルギー問題に対して関心を持ち、エネルギー分野の政治的アクティビティに参加しました。その当時、エネルギー問題の究極的な要因を探っていく中で、問題の本質は、結局のところ拡大し続けなければならない経済システムにこそ存在するのだと漠然と理解したのです。そして、経済とエネルギーの問題に関しての資料や書籍を探している間に見つけたのが、この『クラッシュコース』(とその書籍版) でした。本書では、経済、エネルギーと環境問題について、長い間理解できなかった問題が見事に解説されていした。

『クラッシュコース』で挙げられている多数の例はアメリカのものですが、その裏にある問題の本質は日本にもあてはまります。そして、これらは日本人にとっても経済、エネルギーと環境問題の本質を理解するために有用だと考え、著者の許諾のもとにオンライン版を翻訳し公開します。

原題の”Crash Course”は、字義通りには「衝突コース」とか「破滅の講義」と取ることができますが、英語のイディオムとしては”Crash Course”には「短期集中講義」とか「突貫計画」という意味があります。ですから、英語の原題には、「現代文明の方向転換に関する集中講義」といったニュアンスの、しゃれたダブルミーニングがこめられています。しかし翻訳の常で、しゃれのニュアンスを保ったまま日本語へうまく訳すことができませんでした。そのためタイトルは「クラッシュコース」とカタカナ表記をしています。