クラッシュコース 第二十章 Part 1 『何をするべきか』

この文章は、クリス・マーテンソン氏による『クラッシュコース』第二十章 『What Should I do?』の翻訳です。 – 目次はこちら

本章は、これまでの全ての章の最後のまとめです。この章では「私は何をするべきなのか?」という質問に答えようと思います。
問題を言い換えましょう。「私たちは何をするべきなのだろうか?」 将来の社会変化は、おそらく個人の力だけでは解決できるものではないからです。

第20章は、単なるTODOリストではありません。この章は私の目的、つまり「全ての人々が、自身の行動の責任を引き受けられる人間となる」という目的を反映しています。

20章では、未来へ向けた行動のフレームワークを提供します。わたしたちが「可能」なことの全てを体系的に整理して、「する」ことの優先順位付きリストにする方法です。個人としてのリスク軽減策を考えていきます。
現在私は『クラッシュコース』の続編のビデオを企画しています。国家と世界レベルでの解決策については、そちらで詳細に説明するつもりです。

オーケイ、みなさんは『クラッシュコース』の全てをご覧になったことでしょう。
最初に、経済、エネルギー、そして環境問題の間にどのような相互関係があるのかを明らかにしました。
特に、成長を必要とする経済モデルと、ピークオイルや減耗した資源など、物理的世界との間に大きなミスマッチが存在していると理解できたと思います。
3つの問題の1つだけを解決することはおそらく不可能です。
なぜなら、単純な解決策は他の”E”において新たな問題を引き起こしてしまうからです。
現状維持ではない、真の解決策が必要なのです。

つまりは、人類全体の未来の進路は、単なる過去の延長ではない可能性が非常に高いということです。
私たち個人にとっては、未来は現在と大きく異なったものになると受け入れることが必要となるでしょう。

私は、未来はまったくのランダムなもの、例えて言うならサイコロの目のようなものではないと信じています。ですから、今すぐ行動すれば将来の混乱を最小化できます。

ある意味では、私は現在この最終章を書いていることを喜ばしく思っています。というのも、2008年秋に巨大な経済的混乱が生じ、それによって経済の進行方向を正確に見通すことができるようになったからです。

何兆ドルという救済資金が世界中の政府によって銀行へ投入されましたが、そのほぼ全ては現状維持のためだけに浪費されました。

しかし、銀行システムの救済では、現代の問題、情勢をわずかばかりも変化させることはできません。それどころか、問題を悪化させる可能性すらあります。
アメリカの政府高官たちが、「過去の制度」を維持するべく何兆も借金を増加させているということ、それはすなわち、彼らが責任を放棄しつつあり、一般市民とコミュニティに、3つのEの困難に直面する責任を押し付けているということを意味しています。

「何をするべきか」を記述する上での一番の問題は、個人個人の信念は完全に異なっているということです。
経済情勢の将来に対する信念は、「ちょっとした成長の一次的停止」から「完全なブレイクダウン」までの広い幅があります。みなさん全員がこのどこかに位置付けられるでしょう。

そして、何を信じているかによって、取るべき行動もその緊急度も劇的に変化してしまいます。

そこで、行動のためのフレームワークから考え始めなければならないのです。

このアクション・フレームワークは、4つのステップを踏んで進んでいきます。
最初に、アクションを取るのだと決意する必要があります。
強いコミットメント(決意)が無ければ、継続して行動できませんから。
2つ目に、自分が今持っている資源や知識を確認しておきましょう。そして、ここで自分の強み、弱み、機会、脅威 (SWOT: Strength, Weakness, Oppotunities, Threats)を自己分析しておくことをおすすめします。
3つ目に、自分が可能なことの無限のリストを分類しなければなりません。
それから4つ目に、そのリストに対して優先順位を付けるのです。
可能なことの全てを実際に行うことはできないからです。
アクション・フレームワークは、この4ステップから成り立っています。

それでは、ステップ1から始めましょう。

最初に、先ほど説明したスペクトルをより詳細化してみます。将来起こりうる経済情勢の可能性の一つとして、まずは「現状維持」という可能性を考えます。つまり、全ての重大なリスクがある程度すぐに消滅してしまうというものです。次は、「長期の景気後退」とそれに伴う問題が発生する可能性です。さらに深刻なものとして、「金融システムの崩壊」を次に位置付けます。可能性の問題としては、「政府の崩壊」を考えることもできるでしょう。

未来の経済情勢は、このスペクトルのどこかに位置すると考えられます。問題は、正確にどこに向かうのか事前に分からないことです。ここで重要なのは、現時点では全ての可能性を除外することはできないということです。上記のどの結果も、確率がゼロだと見なせません。そこで、全ての結果に対して重み付けをする必要があります。

ここで、上記の予想一つを使ってちょっとした思考ゲームをしてみます。そして、そこからどう取っ掛りを創ればよいかを検討してみます。事例として、三番目の「金融システムの崩壊」を使用します。

金融危機が発生する可能性や、次の金融危機がいかなる形を取るかについては今は考えません。ここでは、真か偽であるかだけ、つまりは金融危機が発生するかしないかだけを考えます。『「真」と「偽」』という2つの分類で、全ての可能性をカバーできている、と考えられます。

表の下部には、危機に対して事前に準備をしているかしていないかを表現します。ここでも、可能性としては、金融危機の影響をやわらげるために準備をしているかしていないかのどちらかです。

それでは、両方が真だった場合にはどうなるでしょうか。つまり、金融危機が生じ、しかも準備をしていた場合には? おめでとうございます! スマイリーマークを描いておきましょう。あなたはベストな結果を得ることができました。

それでは、金融危機が発生せず、かつ準備をしていなかった場合はどうでしょうか? 再び、おめでとうございます。あなたはベストな結果を得ることができました。この2つの場合、結果としては本質的に同じであるため、意思決定のフレームワークからは排除しておきましょう。どちらの場合においても、その状況下で最高の結果を得ることができるため、この2つを比べて重要度を決めることにあまり意味がないからです。

それでは次の場合はどうでしょうか。金融危機が発生せず、かつ準備をしていた場合です。状況はどれくらい悪いものになるでしょうか? 表の中に、被害には何と書けばよいでしょう。そうですね… あなたはお金を失うかもしれません (たとえば、株式市場においてキャピタルゲインとして得られたかもしれない機会の喪失など)。また、時間も無駄になるでしょう。そしておそらく最悪の被害としては、自分がバカであるかのように感じることかもしれません。
ひどい状態ですね!

それでは、次の項目と比べてみましょう。つまり、金融危機が起こり、かつ準備をしていなかった場合を考えます。何が起こるでしょうか。まずは、あなたはたくさんの資産を失うでしょうし、時間も資源も少ない中で突然に大きな調整を迫られるでしょう。そして、懸念はあったのに何も対策を取らなかった、という後悔と伴に暮らしていくハメになるかもしれません。2の四角の中にまだ書き足したいことがあるかもしれません。もし必要であれば自身でも書いてみてほしいのですが、しかし今は話を先へ進めます。

今しなければならないのは、2つの四角を比べることです。つまり、左下と右上です。この両者を比べた場合、どちらがより悪いでしょうか?どちらかを選ばなければならないとしたら、どうしますか? 我々は皆、違う考え方を持つ人間です。ですが、私は準備もしていないのにたまたまうまくいった、という状況を許せないタイプの人間です。それよりは、準備をしていたのに予想が外れてしまったという状況のほうがまだ許せます。しかし、これは単に私の場合です。あなたがどちらの場合に重きを置くかは、あなたしか分からないことです。しかし、もしあなたが右上の四角の場所に居るのであれば、質問をしなければならないでしょう。「どうしてアクションを取ることができないのでしょうか?」

この方法を若干変更し、「真か偽か」だけよりも微妙な差異を捉えられるよう改善してみましょう。先ほどの金融危機のスペクトル、「軽微な影響」から「完全な崩壊と停止」までの例に戻って考えてみます。全ての人が、それぞれの事象が発生する確率に対して異なる想定をしていると考えられます。

ある人は、非常に悪い状況が発生する可能性はごく微小だと考えており、また別の人は正反対の考えを持っているかもしれません。しかし、ある重要な観点においては、この2者は価値観を共有していると言えます。つまり、どちらも状況が悪化する可能性がゼロではないと考えているということです。起こりうる結果が重大なものであるならば、思慮深い大人ならばリスクに備えた行動を取らなければなりません。たとえ、確率がごく小さいものだったとしても。

あなたがリスクを懸念しており、また準備をしないことで生じるコストが、準備のためのコストを大きく上回るのであれば、準備のための行動を取るのは理にかなっていると言えるでしょう。

オーケイ、それではあなたは行動を取ると決意したとしましょう。困難なポイントはどこでしょうか。そこで、1時間程度使って自己評価を行っておくことをオススメします。以下で説明するのは、我々のサイトからダウンロードできるものの概要です。

評価は、主に3つの分野から成り立っています。経済的な評価は、現在と将来の支出、現在と将来の収入、有形無形の財産、そして今挙げた財産を利用することに関わる問題なども考慮に入れなければなりません。

次に、私が「基盤」と呼んでいる分野も、経済の分野と同様に、あるいはそれ以上に重要です。最後に、食事や住居といった身体的な欲求も検討する必要があります。

自己評価をすれば、私たちの生活はかなり大量のものに依存しており、しかも私たちはそれを当然だと思いこんでいる、と気付くと思います。

自己評価を終えたら、自分の強みと弱みがどこにあるのかについて、ある程度正確に理解ができているはずです。つまり、自己評価はスタート地点なのです。自分が今居る位置と世界との関係を表すものとなります。

さて、それでは外の世界へ眼を向けて、全てのリスクと課題に対し優先順位付けをしましょう。その結果を自己評価と対応させます。

次の3つの観点から、様々なイベントとリスクを分類してみましょう。つまり、緊迫性 (リスクやイベントがどれほど差し迫っているか)、重大性 (重大なことなのか、ささいなことなのか)、と可能性 (イベントが発生する確率と同義) です。

まず「緊迫性」の観点を理解するために、年表上で複数のグループにまとめた出来事を考えてみます。最初のグループには、すぐ直後から2年後までに発生すると予測している出来事を書いています。ここには住宅バブルの破裂、クレジットバブルの破裂、そして銀行制度のシステム的危機の可能性が含まれます。それより少し先には、原油供給不足、ベビーブーマー世代の退職問題、高インフレの発生の可能性を書いておきます。更に先には、国家の債務不履行、不換通貨の終焉、新しい経済体制の出現の可能性すらあるかもしれません。

私はこれら全てに同時に対処することはできないので、主に直近のグループのみに焦点を当てることにします。再度の注意ですが、あたなが作成した図ではそれぞれのグループに全く違うイベントが入っているかもしれませんし、ご自身の場合ではそれを使ってください。これらは、単に説明のために使っているものです。説明のために、ここでは「銀行制度のシステム的危機」を取り上げます。

次に、「重大性」と「可能性」から、ものごとを分析します。保険の概念を知っているなら、このプロセスは既に理解できているはずです。住宅火災保険を考えてみましょう。火事は取り立てて頻繁に発生するものではありません。しかし、火事の影響はとても破壊的です。そこで、賢明な人であれば可能性と重大性とを同時に考慮し、火災保険へ加入するでしょう。

そこで、同じことを他のできごとについても適用してみます。

2×2のマトリックスを作成します。そして、1つの軸にはイベントの「可能性」を「高い」か「低い」かで分類し、もう1つの軸には重大性を「高い」と「低い」で分類します。

まず、重大性が低く、可能性が低いものについては、時間や他の資源を割くべきではありません。ここにあるものについては、心配する意味がないのです。

重大性が高く、可能性も高いものは、決定的に重要です。我々は常にこの問題を考え、最初に対処しなければなりません。

重大性が高いにもかかわらず可能性が低いものについては、多少の検討を必要としますが、しかし概して、普通の頻度で考えれば良いでしょう。

その次に、重大性が小さく可能性が高いものは、時々考えれば良いでしょう。特に、簡単で素早い修復方法がある場合には、起こってから考えても良いでしょう。

そこで、高い-高い、低い-高い、高い-低い、の3つのエリアが私が考える必要のあるイベントが存在する場所です。みなさんがこの図を描く際には、年齢、収入、家庭環境や他の事情によって、図は変化することに注意してください。

私は、今後2年以内にシステム的な経済危機が発生する可能性は50%程度だと考えているため、これを高重大性/高可能性の位置に配置します。つまり、この出来事について深く考慮する必要があるということです。

それでは、この事例を使用して続けて考えていきましょう。この2×2マトリックスを心に留めたまま、経済システムの崩壊に関するリスクに関して次の表で検討します。

最初に、広範囲に渡る銀行の閉鎖については、可能性を「高い」、重大性も「高い」と評価します。そこで、この出来事は「高い」ランクに位置付けられます。

次は、自分の預金口座がある銀行の閉鎖についても、同様の結論に達します。しかし、食料流通の停止に対しては、全体的なリスクを「中程度」と評価し、またドル制度の崩壊についても「中」とします。更に、政府支出の停止のリスクは「低」とします。

ここで取り上げたのは、ごく一部だけです。他の出来事もリストに追加できますし、また自身で分析される際には是非そうしてください。

今伝えたいことは、これまでクラッシュコースで学んできたシナリオに対して、可能性と影響を評価する方法です。

考え方の似ている友達と一緒に、この課題に取り組むことをオススメします。一人では見落していたことを発見できるかもしれませんし、より楽しんで、また速く完成させることができます。

さて、リストが完成したとします。ここまでに、各自の評価に従って緊迫性、可能性と重大性で、将来発生し得る出来事を分類してきました。確実に、みなさんの作ったリストは長すぎて、どこから手を付けたら良いのか分からないと思います。

そこで、優先順位付けを行います。まず最初に、このリストは「できる、またはすること」と「できないこと、しないこと」の2つにすぐに分割できます。

「できること、やること」の中にあるものについて、更に3段階の行動順序をつけます。すなわち、第一段階は必ず第二段階のものより先に始め、先に完了する必要があります。そして、第三段階はさらにその後になります。こうすれば、リストはより扱いやすくなり、どこから始めるかがより簡単に分かるでしょう。「できないこと、しないこと」については、それができる人を見つける (ここでコミュニティに関する検討が始まります)、あるいは、それらの問題を放置しておいてもう検討を止めるなどの選択肢がありえます。

本題に戻ります。優先順位付けをしたリストを更に分類したことで、リストはある程度まで短くなっているでしょう。しかし、おそらく一度に開始するにはまだ長すぎるだろうと思います。そこで、三段階のシステムを使って、最も簡単で、コストが低く、価値の高いタスクを見つけて、取り組むべきなのです。

それでは、第一段階には何が来るでしょうか。ここには、外部からの補助を必要とせず、また実質的にライフスタイルを変化させなくても済む、簡単で、速く、安価なものです。今回の例では、例えば、紙幣を銀行から引き出して手元に保持しておけば、ATMが「しばらく休み」になった際に購買力を保ち続ける猶予を得られるでしょう。これは簡単で、すぐ実行できます。これを実施したことに対する最大のリスクは、後でちょっと間抜けな気分を味わうことくらいで、何も起こらなければお金を再度銀行に預金すればそれで済みます。また、全ての銀行が閉鎖した場合でなく、いくつかの銀行が閉鎖した時のために、預金を分散させるべきだと考えるかもしれません。最後に、アルゼンチンの人々が銀行の閉鎖の際に経験したような[1] 購買力の喪失に備えるべきだと考えるかもしれません。金 (きん) は、銀行システムに完全に依存せずに、お金に似た価値を維持することができる数少ない手段です。そして、これらのことは第二段階のリストを考え始める前に全て済ませておかなければなりません。

そして、第二段階のタスクに進みます。第二段階は、みなさんの自己評価と比較して大きなギャップが存在しており、時間、お金、エネルギー上で大きな投資を伴なうものです。例えば、経済危機の際に必需品を手に入れられるように保存プログラムを実現することや、自身のコミュニティで食料を生産できる方法を考えること、あるいは、より大きな範囲で隣人やローカルコミュニティと協力することが挙げられます。

これらのことが終わったら、今後は第三段階を、つまりより困難なタスクを考える時です。第三段階には、人生における巨大な変化や決断が含まれます。例えば、生活する場所を変えることや、新しいスキルを身に付けること、転職などです。ポイントは、第一と第二段階を進めるまでは、これらの困難なタスクに頭を悩まし時間やエネルギーを費やしたいという欲求に抵抗しなければならないということです。

もし、以上のことがとてつもなく重い課題だと感じ、本章がもっと単純で指示的な「何をするべきか」というリストであればいいのにと望んでいるのであれば、私から言えることは、将来人類が直面する重大な問題には、簡単な答えが存在しないだろう、ということだけです。この章は、すぐにでも1つの学習コースになりえるでしょう。そして、私のサイトで今後公開するビデオでは、これらの疑問に対してもっと詳細に検討していきたいと考えています。

私がクラッシュコース全体を通してずっと訴えてきたことは、「次の20年間は、過去20年間とは違ったものになるだろう」ということです。

特に、我々全員が金融危機に備えなければならないと考えています。金融危機が100%起きると予測しているからではなく、金融危機が100%起こらないと考えることはできないからです。賢明な大人であれば、リスクを特定し、管理しなければなりません。

(続く)



脚注

  1. アルゼンチンで2001年12月に発生した金融危機を指す。多数の金融機関が閉鎖され、庶民にも多大な影響をもたらした。 []