クラッシュコース 第十九章 『未来の衝撃』

この文章は、クリス・マーテンソン氏による『クラッシュコース』第十九章 『Future Shock』の翻訳です。 – 目次はこちら

この章ではクラッシュコースで学んできたこと全てをまとめます。
複数の問題の間に存在する関連性への、包括的な視点が必要です。関連性を考慮しなければ、解決策は永遠に手に入れられません。

それでは、重要なトレンドをもう一度振り返ってみましょう。これらの流れは、ある一定範囲の未来へと収束しつつあるように見えます。

最初に、お金とは何かを理解することから始めました。お金は借金によって、利子付きで出現するということを学びました。これによって、毎年毎年、信用、つまりお金の量を一定の時間に一定の割合で増加させる強い圧力が働きます。これは指数的成長の定義そのものです。実際にお金の量のグラフや、インフレ率のグラフにおいて指数的成長が観察できます。

指数的成長のダイナミクスの次には、負債に関する統計を調査しました。そこでは、借金とは未来に対する対する要求であるということ、また、合衆国の負債は過去全ての基準を上回っていることを説明しました。借金の増加傾向と類似していますが、しかし別のトレンドとして、定常的な貯蓄量の減少が同時期に進んでいます。以上の原因により、記録的に高い水準の負債と、記録的な低水準の貯蓄という現象が同時に表われています。

また、貯蓄の失敗はアメリカ社会の全体に及んでおり、その中にはインフラ投資への絶望的な失敗も含まれていることが分かります。

次に資産、主には住宅が、今や崩壊したバブルの状態にあったという事実を学びました。そして、その解決までには何年もかかるだろうということも。クレジットバブルが崩壊したとき、財政パニックを引き起こし、多くの資本が破壊されたように見えます。実際のところ、それは正しくありません。次の引用句がそれを上手く表現しています。

金融パニックは、資本を破壊しない。
パニックは、それ以前に破壊されているべき非生産的な裏切りと、そうでないものの区別を明らかにするだけである。

ジョン・スチュアート・ミル (政治経済学者; 1806-1873)

つまり、バブル崩壊の影響は、政府が簡単に修復できるようなものではないということです。なぜならば、更なるダメージを喰い止める試みは、そもそもからして間違ったものだからです。ダメージは既に発生しています。あまりに多すぎる住宅、そしてあまりに多すぎるショッピングモールが、あまりに高すぎる価格で販売され、あまりに多すぎる商品が借金を使って購入されていたからなのです。全てはもう終わっています。残った問題は、誰がこのツケを払うかを決めることだけです。そして、現在政府機関に勤務する人たちは、一般市民がそのツケを払うべきだと主張しています。つまり、我々納税者です。

次に、アメリカ政府の極めて深刻な財政赤字について学びました。この問題は、人口動態に起因しています。人口問題自体は、どのような政策、法律や楽観論によっても解決できません。これは、単なる事実です。不愉快な状況ではありますが、重力の法則と同じようにやはり事実なのです。

更には、ベビーブーマー世代の人々が「豊」とみなしている資産 (債券・証券、住居) は、将来、全てを誰かに売却して「価値」を取り出す必要があるものだということを学びました。そこで、ベビーブーマー世代が資産を購入する若い世代は、ベビーブーマー世代より人口が減少しています。売り手が買い手の数を上回ると、価格は低下します。そのため、見かけ上存在している資産の価値を全て手に入れることは不可能です。

また、社会全体の経済活動について、政府発表の経済統計は組織的に歪められておりもはや現実の経済的世界を反映していません。もし、誤ったデータを用いて劣った判断を下しているとしたら、現在困難な状況におちいっているのは何ら驚くべきことではありません。偽りのない客観的な統計を取り戻さない限り、戦略的かつ有意義な未来像を描くことはできないのです。

そして、エネルギーは全ての経済的活動の源であると学びました。特に石油は、現代社会における最重要エネルギー源です。現在のあらゆる経済システムは、エネルギー供給が無限に成長できるという仮定を元にして構成されています。しかし、これは簡単に反論できる仮定です。

個々の油田は生産量のピークを迎えます。それは複数の油田の産出量合計も同様です。つまりは、ピークオイルは理論上の仮説などではなく、油田が減耗していく過程を表現した事実なのです。そこで、永遠の指数的成長を強制する貨幣制度と、現在の主要なエネルギー源が既にピークを迎えた(あるいはもうすぐピークを迎える)という事実の間に存在する圧力について学びました。どういう理由か分かりませんが、アメリカは安い石油が無くなった未来に向けた投資を始めてすらいません。今のところは”プランB”は存在しないのです。

最後に、環境に言及しました。社会が依存している自然資源や自然環境は、指数関数的人な口増による指数関数的な開発による危機に晒されています。そして、資源の究極的枯渇と環境破壊は危機的なスピードで加速しています。自然システムへの小さな変化、たとえば降雨分布の変化ですら、巨大で予想外な緊急のコスト増を引き起こすということを学びました。

私は、現代社会は既にこれらの問題に直面しているか、遠くない将来に直面するだろうと考えています。全ての問題をまとめると、大きな懸念が生じます。

これらの問題を年表上に配置してみましょう。まず、住宅バブル崩壊は既に発生しました。この時期は、ベビーブーマー世代が退職を始める時期と合致していました。同時に、ピークオイルによって石油需要は供給を上回り、社会の方向修正のために膨大な出費を必要としています。更には、資源減耗と気候変動による予期不能のコストも、そう遠くない未来に増加していくと考えられます。これらの状況を取り巻いているのは、国家的な貯蓄と投資の失敗、そして空前の規模の負債であり、私たちの選択肢を狭めています。

この年表は2008年から2020年までを描いたものです。これを見れば、本当に大きな問題がごく短期間に集中しつつある、ということが分かります。

そこで、質問です。「上記の問題に対処するためのお金はどこにあるのだろう? 私たちの貯金は減っていて、借金額はもはや未知の領域に達しているのに。」

どれか1つだけでも、経済への重荷になるでしょうし、もし2つが同時に起これば破壊的にものになるでしょう。それでは、3つやそれ以上の問題が同時に発生したとしたら? 結果としてアメリカ経済が破綻するだろうと予測するのは難しくありませんし、もしかするとドルの富の貯蔵機能は完全に失なわれるかもしれません。

ベビーブーマーの退職者のために、何兆ドルが必要でしょうか?
輸送インフラをピークオイルに合わせて設計し直すためには、何兆ドルが必要なのでしょうか?
年金や福祉給付計画の財源不足を埋め合わせる何十兆ドルという額のお金は、どこから生じるのでしょうか?
過去に無い規模の負債を抱えたまま、年金や給付計画の契約を果たすにはどうしたら良いのでしょうか?
資産バブル崩壊による被害を修復するお金はどこにあるのでしょうか?
食料や鉱物価格は、どれほど上昇するのでしょうか? 今後、石油生産がピークを迎えて、ごくわずかな資源を更に多くの人が大量に必要とするようになった際には?

これらの重大なトレンド、あるいは危機に対処するためには、何年も、何十年も前からの計画が必要です。しかし、危機がすぐ目の前に存在しているというのに、国家的な議論や計画は全く存在していません。

一日が過ぎるごとに、私たちは貴重な時間を浪費しています。問題はより大きく、高コストなものに成長していきます。いずれ、私たちの手に負えない規模になるかもしれません。

今選ぶべき戦略は時間稼ぎではありません。時間稼ぎは、破滅的な行動であると証明されるでしょう。

成熟した大人であれば、複雑な問題をマネジメントし、将来の計画を立てるべきです。私の意見では、数少ない例外を除くと、現在アメリカの政治家や企業経営者たちは、このどちらも行なっていません。私たちがこの状況を変化させる必要があります。

「自分のケーキを食べてしまったとしても、どこかから借りてくれば良いじゃないか。」そんな未熟な考え方を持てる時期は、もう過ぎてしまいました。

シンプルに言えば、自然と財政の予算の範囲内での生活に戻るべき時期なのです。優先順位を定め、予算を定め、その両方を守らなければなりません。

では、あなたは? 将来への道は、決して真っ直ぐなものではないという可能性を受け入れなければなりません。もし、まだそれを受け入れてないのであれば。予期しえない数回の紆余曲折が存在するかもしれません。みなさんは、人類の歴史において最も面白い点に、巨大な変化が起こるかもしれない地点に居合せているのです。

一つの時代の転換は、恐怖であるかもしれないし、面白いものになるかもしれません。その選択は、あなた自身にかかっています。

それでは、私たちは何をすればよいのでしょうか? 今現在できることは何で、どんなステップを踏むべきなのでしょう?

それでは、クラッシュコースの最後の章へ進みましょう。
ご清聴ありがとうございました。