クラッシュコース 第十七章 C『エネルギーと経済』

この文章は、クリス・マーテンソン氏による『クラッシュコース』第十七章のC 『Energy and the Economy』の翻訳です。 – 目次はこちら

それでは、ついにこの章でエネルギー問題と経済問題とを結び付けます。

最近のインタビューで、ユーロ・パシフィック・キャピタル社のピーター・シフ氏は、経済学という学問をこのように表現しています。「有限である資源を用いて、人間の無限の欲求を満たすための科学」であると。人間の欲望を考えれば、ほとんどの人が億万長者のような生き方を望むかもしれませんが、現状の豊富な余剰エネルギーのもとですら、全人類に億万長者の生活を提供することは不可能です。幸運にも、過去100年以上に渡って人類は膨大な量の余剰エネルギーを利用できていたのですが。

さて、ここからが本題です。指数関数のグラフを覚えていますか? 理論上は、指数的成長と減耗曲線で満ちた世界に生きることに何も問題はありません。ただし、世界に限界が存在しない限りは。物理的限界に近づいていくに従って、逆に指数的成長はとてつもなく大きな意味を持ち始めます。石油は、近い未来限界に達するだろうと考えられています。既に、石油発見量と採掘量の両面から、境界に近づきつつあると示されているのですから。

人口、お金、石油需要の3つ全てが、指数関数的な成長を遂げてきました。この3つのうち、人口と貨幣制度の2つは石油によるエネルギー供給の継続的拡大に依存していると考えられます。

ここから推論を進めると、ある疑問が生じます。仮に、現在の指数的増加を基礎とする経済制度と貨幣制度が、人類の進歩による洗練された制度というよりは、実際のところ石油エネルギーによる人工物でしかないとしたら?
豊かな現代社会における複雑さの全て、何兆ドルという富と負債とが、地面から採掘された余剰エネルギーの、単なる表出でしかないとしたら? 興味深い疑問です。

より緊急には、私たち全員が、「石油の生産量減少が始まったとき (としたら ではなく) 何が起きるだろうか」という疑問を真剣に考える必要があります。

減少期には、指数関数的な借金増加に依存した現代の貨幣制度に何が起きるのでしょうか? 貨幣制度は持続的成長なしに機能できるのでしょうか? 重要な問題であり、真剣に解答を考えなければなりません。私は、現在進行中の金融的不安定性について、少なくとも部分的にはこの過程の初期段階だと考えています。

石油消費量を4000年間の年表中に描き、その上に人口増加のグラフを重ねてみるとさまざまな種類の困難な問題が浮かび上がってきます。同時に、選挙の年のお祭り騒ぎの時、もう少し熟考された未来の計画が必要なのではないか、とこれらのグラフは私たちに訴えています。

中央銀行は、利用可能エネルギー源の指数的増加とたまたま同時期に成熟を迎えたに過ぎず、ごく短期間だけ力を得て崇められていたに過ぎません。不換紙幣制度の出現時には、1兆バレルものエネルギーの追い風があったのですが、それは今では逆風に転じようとしています。

持続的な成長期、増加し続けるお金を分配する金融業は、政治的にも大衆からも支持された愉快な仕事でした。エネルギーが減少する世界においては、あらゆる政治、金融機関がこれまでのやり方を完全に変える必要があります。

そこで、今ここで考えてみましょう。最も根本的な前提に誤りのある貨幣制度において、今後何が起きると考えられるでしょうか。つまり、「未来は現在よりも拡大するだけではなく、指数的に拡大する」という前提が誤りであったとしたら?

合衆国の負債額の対GDP比を見れば、この前提があることは明らかです。しかし、1985年から2008年までの赤で囲った期間を見れば、将来は現在よりも更に成長するという根本的な信念が誤りだということが分かります。アメリカの経済規模が14兆ドル程度でしかないのに、負債総額は49兆ドルを超えています。ざっくりと言えば、手取り年収1400万円の人が5000万円の借金を抱えているようなものです。

もし、自分の税率が2, 3倍になることを知っていたとしたら、こんな借金を組むのは賢明なことでしょうか? 国家にとっては、安価な石油の終わりは、恒久的な手取り収入の減少を意味していることを思い出してください。

私からの質問は、自身の収入が減っていくとはっきり分かっているときに、正常な判断力の持ち主は借金を増やし続けるだろうか、というものです。

ここまでをまとめます。現状の私たちの知識を述べます。
私たちは、エネルギーが全ての成長と複雑性の原因であることを知っています。
余剰エネルギーが減少しつつあるということも知っています。
私たちは、安価な石油の時代が終わったということも知っています。
そして、上記の理由から、燃料費用が全支出中に占める割合は増加し続けるだろうと知っています。

以上を考えると、いくつかのリスクがあります。指数的な貨幣制度は、余剰エネルギーが減少する世界においては機能不全を起こすリスクがあります。貨幣は、単純に役割を果たせなくなるかもしれません。

また、現代社会は複雑性を失うことを強いられるリスクがあります。もし真剣に考えるなら、この文章は非常に含みのある書き方をしていると言えるかもしれません。

そして最後に、石油生産量が低下したとしても、貨幣制度の慣性力はハイパーインフレーションの原因となるかもしれないというリスクがあります。

それぞれの事実から、それぞれのリスクが生じていると分かります。そして、これこそがクラッシュコースで伝えたいことなのです。つまり、リスクを評価し、分別のある大人がリスクに直面した際に

以上のこと全てを考慮すれば、未来予測をするのは難しくありません。
ただし、覚えておいてくさい。私は、新たな情報によってこの予測が間違っていことが示された場合には、後で考えを変更する権利を留保しておきます。

まず、現在の体制は、いかなる犠牲を払ってでも維持されるでしょう。政治家は真実を隠蔽し続け、経済統計はより曖昧になり、中央銀行は、もはや根本的に現実と対応を失なった経済システムに対して紙幣を投入し続けるでしょう。

2番目に、結果としてハイパーインフレーションが発生するでしょう。あらゆる商品の価格は、一時点においてどれだけのお金と商品が流通しているかによって決定されます。文字通りあらゆる不換通貨体制が同じ理由によって破綻してきたので、もっと大量のドルが発行されるだろうと合理的に結論付けることができます。同時に、余剰エネルギーの減少から、流通する商品が減少することは確実です。この2つの理由から、インフレーションが引き起こされるでしょう。

3番目は、1番と2番からの論理的な帰結です。生活水準は低下すると考えられます。しかし、生活水準が低下したとしても、生活の質を向上させることは可能です。私はその実例です!

確かに、私がここで取り挙げた問題は数年から数十年先のことであり、人々の行動やテクノロジーの変化によって影響を受けることはほぼ確実です。しかし、次の事実も否定できません。現代社会は、現状維持のための絶望的で、完全に愚かな、不愉快な戦いのために貴重な時間と資源を浪費しています。私たちは、この罠に陥ってはなりません。

そして、この点に関して、クラッシュコースは終わりに近づいています。次の章では、最初の2つのEと環境 (Environment) を結び付けます。そこでは、資源採掘量の指数的な増加と、人類にとって重要な生存基盤の変化、減耗について取り上げます。

それでは、『18章 環境』に進んでください。

ご静聴ありがとうございました。