クラッシュコース 第十七章A 『ピークオイル』

この文章は、クリス・マーテンソン氏による『クラッシュコース』第十七章のA 『Peak Oil』の翻訳です。 – 目次はこちら

オーケー。それではピークオイルに関する章に入りましょう。ここで扱うのはとても複雑な問題です。3章までさかのぼりますが、私が3つの”E”を結び付けると言ったことを覚えていますか。本章で、経済とエネルギーとを結び付けたいと思います。この章はとても重要な章で、大きなテーマを扱います。また、この章の内容は多くの献身的な人々の努力という肩の上に乗っているということに感謝を捧げたいしたいと思います。データを収集し、論点を整理し、現代社会におけるエネルギーの役割について理解を深めるための努力をしてきた人々です。これらの情報源を提供した方々に敬意を表します。

エネルギーは、あらゆる経済活動の血液です。しかし、指数的に増加する借金に依存したお金の制度が経済の基盤であるとすると、経済はエネルギー供給量の指数的な増加に依存しているということになります。そのため、エネルギー供給に最大限の注意を払わなければなりません。

さて、現在のアメリカ合衆国のエネルギー使用量は、合衆国エネルギー省によるグラフを見ると、年間エネルギー使用率の50%を石油が占め、 また石油と天然ガスが75%以上の割合を占めていることが分かります。

これから特に石油の供給について詳細に検討していきますが、石油に対して説明していることはほぼ全て天然ガスについても同様に成り立ちます。

「ピークオイル」が何を意味しているのかを理解するためには、油田がどのように働くのか、石油がどのように採掘されるかについて、共通の認識を持っておく必要があります。よくある誤解としては、油田が採掘されてパイプが挿入されると、地下の巨大な「泉」あるいは「洞窟」から石油が湧き出して、その後やがて枯渇するというものです。

実際のところは、地下には固い岩盤が存在するのみで、石油は狭い裂け目や小さな穴のある多孔質の岩、たとえば砂岩の間に存在しているのです。実際のところ、石油が存在する地下の泉や洞窟といったものは地下に存在しません。石油は、非常に固い母岩の間から注意深く採掘されなければなりません。

地下の油田は、マルガリータに例えることができます。石油はテキーラで、岩石は砕いた氷に例えられます。油田から石油が採掘される際、石油量は時間の経過に伴ってベル曲線の形状に似ていく決まった形を取ることが知られています。最初マルガリータが発見された直後は、グラスには一本のストローしか刺されていません。しかし、その後もっとたくさんのストローが刺され、大量の飲み物がグラスから吸いだされます。しかし、やがて不快なズルズルという音が鳴り始め、今やどれだけ多くのストローを突っ込んだとしても、グラスから得られるマルガリータの量は減少していきます。次第に全ての飲み物は消え、後に残されるのは氷だけです。これが、油田がどのように働くかについてのだいたい正確なたとえです。

今まで開発されてきた油田は、全てこの基本的な採掘パターンを示しています。そして、一つの油田に対して成り立つことは、同様に多くの油田の産出量の合計を取った時にも成立します。それは、個別の油田の生産量がピークを迎えるので、複数の油田のグループも同様にピークを迎えるからです。ですから、ピークオイルは抽象的な理論などではなく、非常に良く検証された物理的現象の表現であると言えるでしょう。

未発見石油の残存量は理論上の仮説でしかありませんが、しかし油田が減耗していく過程はよく知られています。つまりピークオイルは単純な事実なのです。また、ピークオイルは「石油の枯渇」を意味するのではありません。ピークを迎えた時点ではおよそ半分の石油がまだ残っているのですから。

しかし、半分を超えたところでちょっと妙な現象が起こり始めます。最初、地下の圧力によって石油が噴出していたのに、残りの半分は通常手間をかけてかつ当然高いコストを払って地中から汲み出さなければなりません。前半の1バレル当たりの石油採掘のコストは安く、また逆に後半のコストは高くなります。1バレルの石油を採掘する時間、お金とエネルギーのコストは上昇していきます。最終的には、採掘できる石油の価値が採掘に要するコストを超え、この段階で油田が放棄されます。

このグラフはアメリカ合衆国における石油生産量の実例です。1859年に最初の油井が採掘された後、1970年まで漸進的により大量の石油が採掘され続けていきました。しかし、1970年を過ぎると、年を経るごとに前年より少ない量しか採掘するとができなくなりました。まとめると、アメリカ合衆国の石油生産量は1970年代に日産1000万バレルのピークを迎え、そして今日では1日あたり500万バレル以下の生産量しかありません。これはれっきとした事実です。

原油消費量を計算すると、残りの不足分である1日あたり1500万バレルの原油が輸入されていることが分かります。つまり、1日の必要量の約3分の2が輸入されている計算になります。

そして、石油を生産するためにはまず最初に油田を発見しなければなりません。分かりますよね? 発見してすらいない石油を汲み上げることはできません。合衆国の油田発見量は、1930年代にピークを迎えています。そして、発見のピークと生産量がピークとの間の期間は40年でした。この40年という数字を覚えておいてください。

さて、一旦この話は脇に置いておくとしましょう。私たちが「石油輸入からの独立」を望むとして、1000万バレルの原油輸入を何か別のエネルギー源で代替することを決めたとします。1000万バレルの原油は、750基の原子力発電所の能力と同等のエネルギーを持ちます。現在動作中の104基の原発で生じている問題を考えても、原子力は原油輸入を削減するための現実的な候補にはなりえない、と言ってもよいでしょう。それでは、太陽光、風力発電やバイオマスによるエネルギーの場合、どれだけ生産量を増加させる必要があるでしょうか? この場合は、2008年現在稼動している設備を2000倍増加させなければなりません。2000%ではありませんよ。2000倍です!

それでは、全世界の油田発見量を確認してみると、1960年代までは10年ごとに増加していますが、その後毎年ずっと発見量は減少しており、将来の見込みも厳しいものだということが分かります。正確な発見のピークはいつでしょうか? 1964年です。発見のピークは44年前であり、これもまた冷酷な、強固な、議論の余地の無い事実です。

覚えていますか? 石油を生産するためには、まず最初に油田を発見しなければなりません。

そして、これが石油生産量について伝えたい3つ目の、そして最後の事実です。このグラフは、全世界の在来型原油生産量のみを示したグラフです。このグラフには日産1000万バレル程度のバイオ燃料や他の液体燃料などを含めていません。在来型原油は、採掘が容易で高いエネルギー収益をもたらし、世界の経済成長が過去100年間依存してきたものです。2004年の半ばから、何らかの理由によって、石油生産量は増加していないということが分かります。生産量が増加していない理由が何であるかは分かりませんが、原油価格からは理由を説明できません。なぜなら、原油価格は50ドルから今日 (2008年) の120ドルまで上昇しているからです。地中から石油を採掘して市場へ供給することに対する、これほど強いインセンティブが他にあるでしょうか?

では、このグラフは在来型原油の生産量がピークを迎えたことを示していると言えるでしょうか? 急激な価格上昇と停滞した生産量という2つのシグナルは、ピークオイル論が真実であるという否定できない証拠を示していると考えられます。興味深いことに、全世界的な油田発見量のピークは、ちょうど世界の原油生産量の伸びが停滞する40年前であり、アメリカにおける発見と生産量のピーク間の時間に対応しています。

主張をいくらかやわらげて、率直に言いましょう。もし、上記のデータが示唆している通り既にピークオイルを迎えているとしたら、既に私たちは困難な状況にあるということが言えます。

しかし、私たちの目前にある差し迫った課題は、ピークオイルの正確な瞬間を特定することではありません。実際上、その時期は学術的な問題でしかありません。なぜなら、経済的混乱は需要と供給のギャップが発生したと同時に起きるだろうからです。

ここで、ダラスの地質学者ジェフリー・ブラウン氏による、需給問題に関するシンプルで理解しやすい説明を取り上げましょう。このモデルは輸出国モデル(Export Land Model)と呼ばれています。ある架空の国が、現在日産200万バレルの原油を産出していますが、しかしこの国の生産量は年5%ずつ減少しているものとします。もし、この国が原油生産量の全てを輸出できるとすれば、10年後も125万バレルの原油の輸出ができることになります。おそらく、この程度の減少量であれば石油輸入国も対応できるでしょう。しかし、この架空の国が自分のために原油を使うと仮定します。最初、この国は1日あたり100万バレルの原油を消費しており、しかも国内需要は年率2.5%で増加していくものと仮定しましょう。この想定も常識的なものだと言えます。

このモデルのもとで、輸出量にはどのような変化が起きるでしょうか? 輸出量は、10年でゼロになります。これもまた複利のマジックですが、この場合は逆に輸出量は[1] 両端から喰われてしまうのです。このモデルは現実的なシナリオであると言えます。なぜなら、私たちは既に世界中の多くの国で原油需要が増大しているのにもかかわらず、生産量が減少している状況を目撃しているからです。現在、アメリカに対する3番目の原油供給国であるメキシコを例に取ると、生産量の減少と国内需要の成長によって、2011年から2012年の間に輸出能力は消失すると考えられています[2] 。では、この先3, 4年の間に、世界中のどこで、アメリカは新しいナンバー3の供給者を見つけることができるのでしょうか?

いつ世界の原油生産量がピークを迎えるかについては、もはやピークを迎えたという説から30年先だという説まで予測に幅があり、今でも議論が続いています。しかし、以前にも述べた通り正確なピークの時期は純粋に学術的な問題でしかありません。今一番心配しなければならないのは、いつ利用可能な原油供給量を原油需要が上回るかです。その瞬間こそが、原油市場が永遠にそしておそらく突然に変化する時だからです。はじめに、すさまじい価格高騰が起こるでしょう。そして、今実際に価格高騰は起きつつあります。2008年の2月に、一夜にして突然始まったように見えた食料不足を覚えているでしょうか?2008年の食料危機は、需要が供給を上回るだろうという認識によって引き金を引かれ、たくさんの国の食料輸出禁止を引き起こしました。グローバルな石油市場においても、ひとたび石油不足の懸念が支配的になったとすると、当時の食料危機と同様の強力な国家的禁輸が発生する可能性は高いでしょう。そうなった時には、世界中の人々の原油価格高騰に対する懸念は、原油不足の恐怖に負けてしまうでしょうから。

経済と私たちの日常生活においてなぜこれほど石油が重要なのか理解するためには、人類が石油から一体何を得ているのかを知らなければなりません。私たちは、さまざまなエネルギー源に高い価値を置きます。なぜなら、エネルギーを使って何か有用な仕事をさせることができるからです。例えば、100ワットの電球をつけている間ずっと、地下室にいる健康な人が自転車のペダルを全力でこいでいるのと同量のエネルギーが消費されています。これはたった1個の電球が消費しているエネルギーです。あまり意識することはありませんが、水道を流しているとき、熱いシャワーを浴びているとき、掃除機をかけているとき、その家では50人の健康な自転車乗り50人を雇っているのと同じことになります。この「奴隷の数」は、過去に存在したどんな王よりも多くなるかもしれません。私たちはまさに、王様のように生活していると言っても過言ではありません。しかし、自分たちの王様のような生活をあまり意識することはありません。それは、私たちが当たり前だと思っている日常なのですから。

そして、現代社会が最も好む物質であるガソリン1ガロン[3] にどれだけの「仕事」、つまりエネルギーが含まれているでしょうか? 1ガロンだけのガソリンを車に給油して、ガス欠するまで車を走らせるとしましょう。そして、そこからUターンして車を家まで押して帰ると考えると「1ガロンのガソリンが含んでいる仕事」が分かります。答えは、1ガロンのガソリンは人間の500時間の肉体労働と等価なのです。そこで、1ガロンのガソリンの本当の価値はいくらでしょうか? 4ドル? 10ドル? もし、車を押す労働に対して時給15ドルを支払うとするならば、1ガロンのガソリンの(エネルギー的な)価値は7500ドルと等しくなります。

もう一つ例を挙げましょう。平均的な北米の住民が1年間に消費する食料全てを合計すると、生産と輸送に石油400ガロンと等価なエネルギーを消費していると計算されています。

1ガロン4ドルの価格では、1人の食料に年間1600ドルの燃料費がかかっていることになります。これは、それほど極端な出費ではないと思えます。しかし、400ガロンのガソリンが100人の週40時間の労働一年分のエネルギーに相当するということを考えると、この話の意味はまったく変わってきます。
このエネルギーを考えると、現代人の食生活は過去のどんな王様ですら手にいれられないのとなってしまいます。付け加えるならば、食料生産と輸送のためにアメリカ国内の石油生産量の3分の2以上を使用しています。これが、原油輸入の中断が、言うなれば破滅的なものである一つの理由です。

石油が我々の生活水準を歴史的な平均から向上させていること以外にも、石油の存在は一つの奇跡であると言えます。この写真は、典型的なアメリカ家族に存在している石油製品を庭に並べた光景になります。すごい光景です。

現代の消費者主導の成長を元にした経済システムにおける石油の役割を、簡単に別のものに取り替えることができるでしょうか? それは難しいと言わざるを得ません。現在、石油は主に輸送用の燃料として使用されており、その割合は全消費量の70%に達します。次の大きな用途は工業用途で、そして住居用、つまり暖房用燃料が続きます。最後の、小さな銀の領域は? これは発電用の燃料です。バイオ燃料(後で取り上げます)を除いて、全ての再生可能エネルギー源は、熱か電気を生みだします。つまり、もし仮に発電用と暖房用燃料として使われている全ての石油を再生可能エネルギーで代替したとしても、この小さな一部分だけしか置きかえることができないということです。

そして、工業生産において石油は無数の生活必需品の原材料となっています。たとえば、肥料、プラスチック、塗料、合成繊維、多数の化学プロセスなどです。可能性がある代替燃料を考えても、材料としての石油需要を満たすた適正が無いということが分かります。

バイオ燃料と石炭は、石油の原材料としての機能の一部を果たす可能性がありますが、大規模な再投資計画が必要となるでしょうし、すぐには実現できないでしょう。

それでは、重要な事実を見直したいと思います。石油を採掘する前に油田を発見しなければなりません。まず1番目の重要な事実として、世界の油田発見量は1964年にピークを迎えています。北米大陸の原油発見量は1930年代にピークとなり、それら40年後に生産量はピークを迎えました。現在、世界的な油田発見のピークから44年経過しています。

重要事実の2番目は、世界の在来型原油の生産量は、価格が140%も上昇したにもかかわらず過去4年間増加していないということです。事実の1番と2番を合わせると、私たちは既にピークオイルを迎えてしまった可能性が示唆されます。もしそれが本当ならば、私たちはピークオイルの瞬間より前、10年かもっと前から準備を始めておかなければならなかったのにです。

重要な事実の3番は、アメリカの石油輸入量は750基の原発が生み出すエネルギーに相当するということです。これは、現在存在している原発の7倍の数で、全世界で稼動している原子力発電所の2倍近い数に上ります。

クラッシュコースのキーコンセプトの9番は、「ピークオイルは、油田の経年変化を物理的に説明する明確な過程である」というものです。実際、数千という油田における研究事例が存在しており、もはやピークオイルに議論の余地はありません。ただ、実際にいつピークを迎えるかだけが議論の対象となっています。

最も一目で分かりづらいのが、10番目のキーコンセプトです。「石油がもたらすエネルギーの量は、何百人もの奴隷を所有していることに相当する。」石油のエネルギーこそが、私たちの生活を今ある形に、歴史的な水準から考えて驚くべきほどの快適なものにしたのです。過去の王様たちですら、西洋社会に住む平均的な中流階級をうらやむでしょう。

11番目のキーコンセプトは、「石油は限られた供給と限りない重要性を持つ魔法のような物質である。」これは誇張ではありません。

ある燃料源から別の燃料源への移行は、おそろしく高くつき、コスト、規模と時間の観点において無数の困難な問題があります。人類は、何年もかけて木材から石炭へとエネルギー源を切り替えてきました。それは、石炭は木材より優れた燃料だったからです。また人類は、同じ理由で何十年もかけて石炭から石油の利用を進めてきました。

未だ誰も、人類の次のエネルギー”源”となりうる候補を発見できていません。技術自体はエネルギー源ではありません。技術は、エネルギーをより効率的に利用するのに役に立つかもしれません。しかし、技術をエネルギー源であると取り違えるのは、大きな間違いです。

そして最後に、私たちが懸念しなければならないのは、原油需要が供給を上回ることです。そして、ここから12番目のキーコンセプトを引き出すことができます。「石油輸出は2つの方法で壁にぶつかる。つまり、需要量の増加と生産量の低下である。」

ここから、世界中の国々が、全世界に行き渡るだけの十分な石油は存在しない、と最終的に認識する瞬間は、多くの人が疑っているより早くやってくると考えられます。指数関数は理解が困難であり、産油国の自己消費と産出量減耗の両方の影響で、石油輸出量は疑いようもなく減少しているからです。

これでとても短いピークオイル論の紹介を終わります。ピークオイルは匹敵するものが無いほど重要なテーマですから、もし、ピークオイル論についてまだ知らなかったのなら、もっと詳しく知っておく必要があります。このウェブサイトから、多数の必読書、必読記事と資料へとリンクしています。

次の章ではエネルギーと経済との関連について議論します。

「シェール革命」を受けたピークオイル論の修正については、『経済成長のために十分なネットエネルギーは存在しない』 をご覧ください。



脚注

  1. 訳注: 生産量と国内消費量の []
  2. 訳注 ここ数年の世界的な原油需要の減少にともなって、メキシコは2012年現在でも原油純輸入国になっていません。しかし、生産量の減耗は確実に観測されており、ここ数年はメキシコの生産量と国内需要は拮抗しています。また、メキシコは石油精製製品に対しては既に純輸入国となっています。 []
  3. 訳注: 約4.5リットル []