クラッシュコース 第十五章 『バブル』

この文章は、クリス・マーテンソン氏による『クラッシュコース』第十五章 『Asset&Demographics』の翻訳です。 – 目次はこちら

オーケイ。前章では、合衆国の資産について考察してきました。本章では、資産バブルとは何なのか、なぜ生じるのか、そしてその影響について、もうしばらく説明の時間をとりたいと思います。この章では、特に米国の住宅バブルを詳しく説明します。なぜなら、住宅バブルは最近起こったばかりの史上最大のバブルであり、またおそらく最も破滅的な影響をもたらしたものだからです。

長い長い歴史を通して、資産バブル崩壊の際には常に深い傷跡が残りました。社会的・政治的・経済的な大激変は、典型的なバブル崩壊の悪影響です。またその一方で、社会の富は確実に破壊されます。

不合理な投資行動があまりに長く続いてきたため、バブル、熱狂(mania)と、単なる経済的繁栄の区別はあいまいになっています。それでも、『バブル』は本当にバカげた行為を差す言葉として、特別な意味を持ち続けています。そして、歴史にはバカげた行為の実例が豊富に存在しています。

かつては、バブルは一世代に一回程度しか発生しませんでした。みんながバブル崩壊の痛みを忘れるまでには、それくらいの時間が必要だったからです。今日では、私たちは生涯2度目のバブル、–つまり、住宅バブル– に直面しています。前回のドットコムバブル崩壊からまだ10年も経っていないというのにです。これは本当に驚くべきことであり、完全に前例の無いことです。

さて、現在の状態が「資産バブル」であると知る方法はあるのでしょうか? また、そもそも資産バブルはどのようなもので、バブル崩壊時には何が起こるのでしょうか?

広く知られている通り、連邦準備銀行は「バブルは、崩壊するまではバブルだと分からない。」と主張しています。しかし、実際には崩壊前でもバブルであると認識することができます。バブルの定義はとてもシンプルです。『バブルとは、資産からの収入によって維持可能な範囲を超えて、資産価格が高騰した状態である。』
バブルは、人々が理性を捨て去り、願望と欲望とで置き換えた状態なのです。

前述の歴史的なバブル一覧の中から、1600年代にオランダで発生した興味深いバブルの例を取り上げましょう。理由はよく分かりませんが、当時のオランダ人はチューリップに熱中していました。チューリップは金持ちになるための絶対確実な方法だとされ、狂乱的バブルの種が蒔かれました。そうです。チューリップの球根です。美しく、特徴的なチューリップの栽培法が開発されバブルが始まりました。狂乱的な投機が進むにつれて、球根は高額で取り引きされるようになりました。バブルの絶頂期には、 センペル・アウグストゥスという種類の球根1個が、運河沿いの高級住宅1軒の価格と同額で取引されていました。

しかし、次第に人々は気付き始めたのでしょう。実際に栽培できるチューリップの量は、市場で取引されているよりも少ないということ、そして結局のところ、球根は単なる球根でしかないということに。

チューリップの球根の大流行は唐突に終わりました。1637年2月の、新しい取引シーズン開始の日です。その日、ごく限られた人だけに聞こえる警告音が鳴り響き、その後チューリップの球根価格は暴落しました。

チューリップバブルの事例は、バブルの2つの特徴を示しています。まず、バブルの上昇期には、バブルはひとりでに加速していくものだということです。つまり、上昇する価格それ自体が、資産価格の上昇を正当化します。次に、価格上昇の幻想があまりに高まりすぎると、ゲームは突然、永久に終わってしまいます。

次に取り挙げる例は1700年代に起きたもので「南海会社バブル」と呼ばれています。南海会社は当時のイギリスの株式会社で、南アメリカとの独占的貿易権をスペインとの条約[1] のもとで認められていた会社です。南海会社は、政府による独占以外の面では、大した利益を上げていない会社だったという事実は、人々が南海会社の将来に大する投機を始めるのを妨げませんでした。そして、株価は急激に上昇を始めました。「誰もそれが何であるかわからないが、とにかく莫大な富を生み出す企業を運営する」とさえ宣伝されていました。

アイザック・ニュートン卿は、南海会社の継続的な株価上昇についてどう思うか、と質問されたとき、以下のように答えています。「私には人々の狂気を計算することはできない。」なるほど確かにニュートンは万有引力の法則の計算方法を発明したかもしれませんが、最終的にはニュートンはバブル崩壊時に20,000ポンドを失っています。知性の優れた人であっても、バブルが拡大していくかもしれないという動物的欲望には抗いがたいものだ、ということを示しています。

1720年に熱狂状態が始まり、教科書どおりの完璧なバブルの具体例となっています。ここでは、もう2つバブルの根本的な性質が反映されています。2つのグラフは、時間と価格の両面でほとんど対称形をなしているということです。

つまり、バブルの形成までにどれほどの時間が経過しようとも、バブル崩壊後には価格は元に戻るということです。もし、元の価格以下に下落しないのであれば、ですが。

バブルの特徴は、このグラフから分かります。このグラフの形をよく覚えておいてください。これから先、何度も、何度も、何度もこの形を目にするでしょうから。

さて、これははダウ・ジョーンズのグラフです。1921年ごろから始まる株式バブルと、その後の大恐慌は、ほぼ同じ軌跡を取っています。つまり、過熱した株価が元に戻るまでに、上昇期間とほぼ同じだけの時間を必要とし、そして株価はほぼバブル開始前の水準に戻っています。

そして、次のグラフでは1912年から1922年までのGMの株価を青の線で、インテルの1992年から2002年までの株価を赤の線で示しています。どちらも、バブルによって株価が上昇した時期です。一方は自動車メーカーであり、もう一方はハイテク半導体製造業者であり、80年の時間差があるにもかかわらず、株価はよく似た形を取っていることに注目してください。

何世紀にも渡って、バブルが同様のパターンを示していることから、バブルの原因は特定の金融システムにあるのではなく、人間の欲望、恐怖や希望といった原始的感情によって形成されていると考えられます。
年月が経過しても、人間の感情は変化しません。だから、「今回は違う」という言葉を聞いた時には、用心して財布の紐を締めたほうが良いと思いますよ。

いつからかは分かりませんが、人々は住宅価格も「永遠に成長が続く」という物語を信じ始めたようです。
そして米国市民は、住宅投資は裕福になるための道である、と心の底から信じるまでになりました。
更には、自宅のソファーでビールを飲んでいる間に、裕福な暮らしへと私たちを導いてくれる安易な道にまでなったのです。

今や、そんな安楽な方法は無いと自覚しなければなりませんが、しかし、バブルは通常このように進むものなのです。

いずれにせよ、長期的には住宅価格は建設に必要とされるコストによって決まると考えられます。つまりは、住宅価格はインフレ率によって影響を受けるということです。これはロバート・シラーによって作成されたインフレ率補正後の住宅価格のグラフです。1890年から1998年まで、住宅価格はほぼ一貫してインフレ率と同じく上昇してきたということが分かります。グラフの上昇は、住宅の評価額はインフレ率よりも大きく上昇したことを示しており、逆にグラフが下降した際はインフレ率以下のレベルにまで低下していることを示しています。

118年以上の長い期間に渡って、住宅価格の平均は101.2とされています。つまりは、インフレ調整後の住宅価格は、長い歴史を通じてほとんどインフレ率と同等であったということです。不動産価格はインフレ率に対し安定して追随しており、そして大恐慌以前と最中にかけて下落し、再度安定しました。そして第二次大戦後、劇的に上昇しています。

1979年の小さな山が分かりますか? 当時、資産バブルが発生したことを私は今でも覚えています。バブルとその崩壊は、そのころ私が住んでいた米国北東部にも影響を与えました。私は開発が放棄された建築現場を自転車で走り回っていたのです。(楽しい思い出です)

資産バブルの時期に、住宅価格のグラフは左右対称の山形を描いて、インフレ率の基準線にまで返っています。その後の1989年の資産バブルの際も同様です。

さて、もしこの2つが資産バブルであるとしたら、1990年から2008年までの上昇は一体何なのでしょうか。
今回の住宅バブルほどの規模のバブルは過去に前例がなく、過去に存在したバブル全てを上回っています。
これほどの規模のバブルは今まで存在しないため、崩壊時にどのような影響があるのか、歴史的な指針の無いまま、私たちは取り残されています。

更に今回のバブルが2004年に突如として始まったわけではないということを指摘しておきましょう。住宅バブルは1998年に始まり、2000年に過去の2つのバブルと同等の規模に達しています。
みなさんは、こう考えるかもしれません。「もし連邦準備理事会(FRB)がこのデータにアクセスできて、2000年ごろから資産バブルが進行していると知っているのなら、どうしてFRBはアグレッシブな低金利政策を取り、2003年から2004年にかけて1%という低金利を維持したのだろう」と。

この疑問は本当に重要なので、答えておきましょう。

今回のバブルが本当に底を打つのは、どこで、いつごろになるのでしょうか? 対称性を考えると、本当の底は2015年ごろにやって来ると思われます。またその時には、今までの例からすると住宅価格は実質的に半分程度まで低下するでしょう。

住宅価格を考えるための他の視点としては、人々の金銭的余裕という観点があります。繰り返しますが、長期的な平均の住宅価格が、一般市民の平均収入増加よりも速く上昇できるはずがありません。なぜでしょう? 一般的な市民が支払える金額が、住宅価格を制限するからです。

そこで、このグラフは平均収入と平均住宅価格を比較したものです。1979年と1989年のバブルは、このグラフ上では大して目立っていませんが、グラフ上の黒い矢印で示されています。過去のバブル期における住宅価格の上昇は、平均収入の増加からそれほど大きく外れてはいなかったため、バブル崩壊のインパクトは限定されたものでした。まぁ、それでも悪影響はあったのですが、収入と住宅価格を再度合致させるために、長い調整の道程を経る必要はありませんでした。

今回はどうでしょう? 何度も繰り返しますが、平均収入と住宅価格の差がこれほど拡大したことは過去に前例がありません。そして、不穏な兆候は少なくとも1999年ごろから始まっていることが分かります。所得の伸び率だけをから考えると、2つのグラフが再び一致するためには、住宅価格はどれほど低下しなければならないのでしょうか? 答えは、34% — 合衆国全体で — です。このことから、まだ今後も不況は続きそうだと言えるでしょう。バブル崩壊時のオーバーシュート傾向を考えると、40%から50%もの資産価値下落がこの先控えているとも考えられそうです。再度住宅価格が底を打つ時期を推定してみると、2012年から2015年辺りとなります。思い出してください、『バブルとは、資産からの収入によって維持可能な範囲を超えて、資産価格が高騰した状態である。』ということを。

それでは、バブルの期間中ずっと、連邦準備制度理事会は何をしていたのでしょうか。彼らは、住宅バブルなど存在しないとダマすための”研究”論文を書くのに忙しかったのでしょう。一例として、2004年に発表された「不動産価格は次のバブルなのか?」というタイトルの論文を紹介します。

論文の序文は、鋭い指摘から始まっています。「住宅価格は、1990年代半ばより力強く上昇を続けている。しかし、不動産価格の上昇はバブルなのではないか、住宅価格は暴落に対して脆弱であり、合衆国経済に損害を与えかねないのではないか、そのような懸念が持ち上がっている。」

残念なことに、この論文の結論は正反対のものになってしまっています。

「…しかしながら、近年の合衆国住宅市場を詳細に分析した結果、このような懸念に対する根拠は発見できなかった。著しい住宅価格の上昇は、市場の力強いファンダメンタルズに起因するものである: 住宅価格は、本質的には家計収入の増加と名目住宅ローン金利の低下に沿って進んでいる。」

「本質的には、家計収入の増加に…沿って進んでいる」ですって?

インフレ調整後の家計収入は、過去8年間増加していないという事実は今日広く知られています。部分的には、過去10年間における経済政策の失策が原因です。ということは、Fedの研究者は無能であるか先入観を持っているか、あるいはその両方であるという証拠ではないでしょうか。経済界のリーダーがこんな体たらくでは、私たちは現在の混乱した状況から抜けだせるのか、不安に思っています。

しかし、Fedの研究者は単に数多くの人々の行動に倣っているだけなのです。言うなれば、「今回は違う」という誤った信念に陥っているのです。しかし、バブルとはそういうものなのです。自分の直感を手放し、あらゆる理性の働きを自分のポジションを正当化するためだけに用いるのです。しかし、突然ある時幻想は崩れ、強固だと思えたものが無意味になってしまいます。その日が来たら、バブルの運命は完全に崩壊するまでの時間を待つ以外にありません。

なぜこれが重要な意味を持っているのでしょうか?なぜならば、私たちはバブル崩壊の影響と長い間付き合っていかなければならないからです。

住宅バブルの責任者を探し、非難したいと考えるかもしれません。しかし、劇的な住宅価格の上昇それ自体は、暴走した信用バブルによる症状でしかないということは忘れてはいけません。

2000年末、株式バブル崩壊時におけるクレジットの総計は27兆ドルにまで達していました。2007年末には、さらに48兆ドルにまで膨れ上がっています。この7年間における21兆ドルという借金の増加額は、同じ期間におけるGDPの成長の5倍以上です。住宅バブルの原因を理解しようとするのであれば、莫大な借金の増加が背景にあることを押えておいてください。

しかし、前章で述べた通りクレジットバブルは25年以上も続いています。数世代に渡るアメリカ人の借金中毒を治療するためには、意識と習慣両面でとてつもない変化が必要となるでしょう。

バブルが、とりわけ今回のような住宅バブルが破壊的である理由は、バブルに沿って間違った投資が行なわれてしまうからです。既に、あまりに多数の住宅、多数のショッピングセンター、多数のマンションが建設されてしまいました。エネルギーコストが上昇していく未来においては、それらのほとんど全ては大きすぎるか、または不適切な場所に位置しています。残念なことに、住宅バブル中に数兆ドルもが浪費されてしまいました。もっと言えば、資金を必要としていた別の場所から、将来のチャンスを盗んでいるとさえ言えます。

経済学のオーストリア学派は、クレジットバブルがどう終了するのかについて、明快かつ歴史的に正しい定義を行なっています。ルートヴィヒ・フォン・ミーゼスはこう述べています。
『信用拡大によってもたらされるブームの最終的な崩壊を避ける方法はない。これ以上の信用膨張を自発的に放棄した結果として危機が早く来るか、当該通貨制度の最終的・全体的破局として遅く来るかの二者択一しかない。』

この見解が、私がドル崩壊という可能性から自身の資産を防衛するための行動を取っている理由です。国家としては、私たちは未来の無い方向へ進んでいます。。つまり、信用拡大の停止を放棄し、通貨制度の最終的崩壊をなすがままにしておくことが、将来最もありえる結末だということです。

では、そのタイミングは? これ以上ない最悪のタイミングだという他ありません。住宅バブルの崩壊は、人類の歴史において今この瞬間に直面しなければならない運命のようなものというわけではないのですが、しかし私たちは今ここで、まさにこの問題に直面しています。この問題に対する連邦準備制度理事会とワシントンの管理手法は、欠陥のあるものでした。

それでは、クレジットバブルの崩壊から何が起こると予想できるのでしょう。簡単に言えば、安易な信用の供給によって成長したものは、崩壊すると考えられます。私は特に、株式、低格付け債券、そしてもちろん不動産価格の崩壊を警戒しています。

私は、一般的な方法では資産を守ることができないだろうと考えています。ですから、自身の資産の安全性に関する困難な問題について、考えてみることをお薦めします。(そして、もし金融アドバイザーが居るのであれば相談してみてください。) きっと、後でそうしておけば良かったと思うでしょうから。

忘れないでください。今回も、おそらく違わないでしょうから。

それでは次の章に進みましょう。次は、私が「あいまいな統計」と名付けた、私たちが自分自身を騙すための、聞こえの良い半分の真実と半分の嘘について調査します。
ご清聴ありがとうございました。



脚注

  1. 1713年、スペイン王位継承戦争の講話条約であるユトレヒト条約 []