クラッシュコース 第七章 『お金の創造』

この文章は、クリス・マーテンソン氏による『クラッシュコース』第七章 『Money Creation』の翻訳です。 – 目次はこちら

この章では、お金が創り出される過程[1] について説明したいと思います。

まずケネス・ガルブレイスについて紹介します。ガルブレイスはハーバード大学の元経済学教授で、また、政治的な活動にも参与し、フランクリン・ルーズベルト、ハリー・S・トルーマン、ジョン・F・ケネディ、そして、リンドン・ジョンソン政権の経済政策に関与しました。また、他にケネディ政権の駐インド大使だったという経歴もあります。そして、ガルブレイスは大統領自由勲章を2度受勲した数少ない人の一人でもあります。

明かに有能できわ立った人物だと言えるでしょう。広く知られている通り、ガルブレイスはお金についてこんな言葉を残しています。「お金が創り出される過程はあまりに単純なので、逆に納得しがたい。」

この章では”納得しがたい”と表現されている、お金が創造される過程を扱います。

もし、この章を1度読んでも理解できなかったとしても、心配しないでください! 信用創造の過程はゆっくり熟考しなければ理解できない、本当に受け入れがたい奇怪な現象なのですから。

まず最初に、一般の銀行がどのようにしてお金を創り出すのかを説明します。

最初はお金のそもそもの起源を考慮しないことにします。今、1000ドルを持った人が町にやってきたとします。さらに、この町にはたった今、偶然にも1円の預金もない真新しい銀行が設立されたばかりだとします。男が1000ドルを銀行へ預け入れると、彼は1000ドルの資産を持ち(銀行口座の中に)、そして銀行は彼に対して1000ドルの負債を持つ(同一の口座で)ということになります。

さて、合衆国連邦法の法律書によると、銀行は預金者から預かったお金の一部を他人に貸し出すことができるとされています。理論上は、銀行は預金のある割合だけを、だいたい90%程度までを貸し出すことができるとされているのですが、しかし、後で見るようにこの貸し出し比率はほぼ100%まで近づいています。それでもやはり、銀行は預金の一部を払い戻しのために確保しておく必要があります。銀行が払い戻しのために保持するお金は「預金準備金」と呼ばれています。

最初の例に戻ります。銀行口座には1000ドルの預金がありますが、預金をただ保管しておくだけでは銀行はお金を増やすことはできません。預金を貸し出し、預金金利より高い利息を他から受け取って利益を上げる必要があります。

銀行は預金の90%までを貸し出せるため、今の例では、銀行は誰か900ドルを借りたいと思っている人を見つけ出して、お金を貸し出すことになります。

銀行から借金をした人は、別の人にお金を支払います。おそらく、取引先かどこかでしょう。そして900ドルを受け取った人もやはり、この900ドルを銀行へ預け入れます。預金先は同一の銀行かもしれませんし、他の銀行かもしれませんが、話の大筋としては違いはありません。

預金を受けとった銀行は900ドルを得ます。そして、銀行はこの900ドルも貸し出す必要があります。そのため、銀行は900ドルの90%、つまり810ドルを借りたいと思う人を探して忙しく営業しなければなりません。

そして再び新たに810ドルが貸し出されます。この810ドルも、別の人に渡った後に銀行へ預けられ、また810ドル分の預金が発生します。この次は810ドルの90%である729ドルが貸し出されます。この過程はまだ続きます。当初1000ドルの預金だったものが、最終的には合計10000ドルにまで膨れ上がります。

さて、この10000ドルは本当のお金なのでしょうか? もしこれが自分の口座のお金であれば、本物のお金だと確信を持って言えることでしょう。しかし、よくよく注意して見ると3つの奇妙な現象が起きていることが分かります。まず一つ目は、実際には銀行の準備金として1000ドルしか存在しないのに、全ての銀行口座の残高を足し合わせると10000ドルとなり、9000ドルは新規の借金だということです。もともとの男が預けた1000ドルは、最終的には全て銀行による準備金として保持されています。しかし、新しい9000ドルは借金から発生しており、同額の銀行の負債によって裏付けされています。
どうでしょうか? 納得できますか?

またもう一つ、もし預金者全員が一度に10000ドルを引き出そうとしても、銀行は全員に払い戻すことができないということが言えます。なぜなら、銀行は単に10000ドルを持っていないからです。銀行が預金者に払える準備金は1000ドルしかありません。終わり。

さらにもう一つ付け加えるならば、新しいお金が創り出される仕組みは、借金をした人が誰も破産しないという前提のもとでしか機能しません。誰かが破産した場合、やっかいな問題が生じます。しかし、これは後で別の機会にお話しすることにしましょう。

今は、お金は借金から発生するということを理解してください。逆に言えば、借金が全て支払われてしまうとお金は「消滅」します。

ここまでで説明したのが、お金が創り出される方法です。みなさん自身でも確かめてください。証拠は連邦準備銀行自体のウェブサイトにあります。連邦準備銀行のサイトに、この章の元ネタとなった漫画が公開されています。このサイトのEssential Readingからもリンクを貼ってあります。

今の話の中で、重要な問題を省略してることに気がつきましたか? ここでは金利を考えませんでした。全ての借金の金利を払うためのお金は一体どこから生じるのでしょうか? もし金利が存在しないとしたら、今までの過程を巻き戻すことで、最初の状態へと戻ることができます。しかし、金利について考え出したとたんに、全ての借金を支払うだけのお金はどこにも存在しないということになります。

金利を考えていないことはこのお話の明白な不備ですから、次に金利を払うだけのお金はどこからやってくるのかを考える必要があります。また、それを考えていけば、そもそもオリジナルの1000ドルはどこから発生したのかという謎も説明されるでしょう。

さて、どうしてこれまでの数分間の間、お金の創造のメカニズムについて学んできたのでしょう? それは、現在の膨大な額の負債がもたらす影響を理解するためには、そもそも借金がどうやって生じるのかを理解しなければならないからです。これが1つの理由です。そしてもっと重要な理由として、3章で見たさまざまな指数関数のグラフに関係があります。しかし、それをまだ十分に説明できていませんね。次へ進みましょう

ごく単純化した信用創造の過程の説明については、このサイトの『なぜ経済は成長するか?』もご覧ください。



脚注

  1. 訳注: 英語で「money creation」と呼ばれるこのプロセスは一般的には「信用創造」と訳されます。しかし、この専門用語は現象それ自体に対する直感的な理解を妨げるものであると考え、あえて直訳を使用しています。 []