クラッシュコース 第五章 『成長 vs 豊かさ』

この文章は、クリス・マーテンソン氏による『クラッシュコース』第五章 『Growth vs. Prosperity』の翻訳です。 – 目次はこちら

それでは、クラッシュコースの2つ目のキーコンセプトを紹介しましょう。 しかし、この考えは経済学の本流から大きく外れたものなので、私の立場を補強するために、まずは19世紀の哲学者の言葉を引用します。

これがその引用句です。

“全ての真実は3つの段階を取る。最初、真実はバカにされる。次に、激しく攻撃される。最後に、真実は自明なものとして受け入れられる。”

この偉大な格言は、隅に写真を表示しているショーペンハウアーのものです。

今後20年のいつかの時点で、これから紹介する新しい考え方は「自明な」ものとなるでしょう。しかし、今の時点ではまだ多くの人にバカにされる段階にある、と言ったほうが賢明であるかもしれませんね。

さて、ここで注目するのは「成長」です。

成長は良いことだ。そうですよね? 私たちは成長する経済を必要としている。そうでしょう? でも、なぜ? それは、経済成長は繁栄を、人々が豊かになることを意味するからです。成長はより多くのチャンスを与えてくれますし、私たちは全員多くのチャンスを望んでいます。少なくとも私はそうです。そして、これは今日有力な物語でもあります。

ですから多くの人々は「経済成長は豊かさと等しい」と考えているでしょう。でも、これは本当に正しいのでしょうか? そして、もし間違っていたとしたら?

成長は、実際のところは余剰、つまり何かが余っていることの結果だと考えられます。例えば、私たちの身体が成長するのは、余剰食料があるときだけです。食事によって得られるカロリーと、身体が燃焼させるカロリーが正確に一致していたとしたら、身体は成長できないどころか痩せてしまいます。同様に、池の水位が上昇 (成長) するのは、流出する水量より流入量が多いときだけです。

だから、実際には成長は余剰に依存していると言えるでしょう。

同じく、豊かさも余剰に依存しています。別の例を挙げます。あなたは4人家族で、家族全体の年収が40,000ドルだとしましょう。そして、年末には手元に1ドルたりとも余分なお金は残らない、つまり家族はカツカツの生活をしているとします。しかし、あるとき10%の昇給を得られました。これは年間4000ドルに相当します。そこで、家族は次の選択肢のどちらかを選ぶことができます。つまり、昇給分でもう一人の子供を生み育てるか、それとも今の家族4人一人一人で余分にお金を使って、リッチな生活を楽しむかです。しかし、この両方ともを選択することはできません。あなたの家族には、どちらか片方をするだけの収入しか無いとします。ですから、どちらかを選ばなければなりません。成長か、それとも豊かさかを。そして、4人家族と同じく、町、州、国、そして世界全体でも同様の選択を迫られることがあります。

この4人家族の例から、単純で深淵な考え方を導くことができます。つまり、成長イコール豊かさではないということです。過去数百年間の間、私たちは誤ってその2つを混同していました。なぜなら、人類にはこれまで常に、成長と繁栄を同時に達成できるだけの余剰エネルギーがあったからです。

つまり、人類は成長と繁栄の間で厳しい選択をする必要がありませんでした。

エジンバラ資源利用研究所のエコノミストであるマルコム・スリザー氏は、現在世界のエネルギー消費量の半分以上は単に経済成長のためだけに使われていると計算しています。

それでは質問です。もし、余分なエネルギーなりお金の全てを、単に成長のためだけに使わなければならなくなった時何が起こるでしょうか? そのときには、私たちの豊かさ(の増加)は停滞してしまうでしょう。

更に、成長それ自体すら維持することすら不可能になったとしたら、一体何が起こるでしょうか? その時には、負の成長[1] と、豊かさの減少の両方に同時に直面することになるでしょう –ただし、これは私が想像している未来とはちょっと異なりますが。

これは我々の時代における最大の課題です。 現在残されている余剰資源をどこへ使うべきか正しく認識し、こんな未来予測から脱出しなければなりません。私個人としては、エネルギー効率の改善、医療技術や、その他全ての現代社会が提供するものの発展が続いてほしいと思っています。
しかし、もし自分たちが簡単な方向へ流れることを許してしまうのならば、– つまり、最も抵抗の少ない、これまで通りの単なる成長路線を取ってしまうのならば — 現在残存している余剰資源を、より豊かな未来を作るために使用できないかもしれないという危険性があります。

それでは、キーコンセプトの2番目です。「成長イコール豊かさではない。」

それでは、「指数的成長」と「成長と豊かさ」の2つを手にして、「お金」と呼ばれているモノへの考察に進みましょう。



脚注

  1. 訳注: サイズ自体の縮小 []