クラッシュコース 第三章 『指数的成長』

この文章は、クリス・マーテンソン氏による『クラッシュコース』第三章 『Exponential Growth』の翻訳です。 – 目次はこちら

クラッシュコースでは、いくつかの基本的なキーコンセプト (鍵となる考え方) を学んでいきます。その中でも「指数的成長」より重要な概念は存在しません。指数的成長を理解すれば、より良い未来を形作る可能性を大きく広げることができます。

これが、典型的な指数的成長、指数関数のグラフです。このグラフのパターンはよく「ホッケースティック」と呼ばれます。グラフに描かれているのは、何らかの量の時間的変化です。グラフがこんな形になるために必要な条件は、何らかの量が、一定の時間に一定の割合で成長していくということだけです。

もし成長率が小さければ、ホッケースティックの形が表れるまでにより長い時間をグラフに描く必要があります。

もう一つ、説明しておきたいことがあります。指数関数が一旦「曲り角を曲がる」と、成長の割合が一定でごく低いものであったとしても、グラフに表現される量は激しく増加してくということです。増加速度はどんどん加速していきます。

具体例として、歴史的に成長率が1%以下だったある数値のグラフを表示しています。これは、世界人口を示したグラフです。そして、人口成長率は1%以下であったために、ホッケースティックの形が表れるまでには数千年ものグラフを描かなければなりません。緑の線が歴史的な人口、赤の線が最新[1] の国連による将来42年の人口増の予測です。

ここまでの説明を聞いて、数学の得意な方はちょっとした違和感を感じるかもしれません。というのは、今の説明は数学における典型的な表現方法ではないし、しかも正確な表現でもないからです。

数学者は指数関数を増加「率」によって定義するよう教育を受けているのに対して、ここでは増加「量」に注目しています。「増加率」も「増加量」も、明確に定義できるものです。増加率は数式として表すには便利ですが、量による表現の方が直感的に理解するために有用でしょうから。

増加率と違って、指数関数の増加量は一定ではありません。ある一定の時間における増加量は、時間が過ぎるごとに増加していきます。ですから、我々にとっては増加率ではなく増加量で考えることが必要なのです。増加量の考え方は大変重要なので、理解していただけるよう次の章でも扱いますよ。

同様に、指数関数のグラフに「曲り角」などというものは無いと数学者は言うでしょう。それは、指数関数の「曲り角」は縦軸の高さをどう描くかによって決まる、ある意味では人為的なものだからです。つまり、縦軸を適切に変える限り、指数関数のグラフでは常にホッケースティックのような曲り角を描くことができます。

しかし、もし何らかの量の限界、または境界が分かるとするなら、グラフの縦軸の高さを固定することができ、ある量の限界があるならば、指数関数の「曲り角」は絶対的に確実で死活的に重要なものになります。

限界があるか無いかは決定的な区別になります。そして私たちの未来は、より多くの人が限界を理解できるかにかかっているのです。

例えば、地球の環境収容力[2] は、限りのあるものだと考えられています。地球の環境収容力を数十億人と見積ってみましょう。もし限界があるのならば、「指数関数の曲り角」は現実のもので、我々にとって死活的に重要なものになります。もはやグラフの描き方による恣意的なごまかしではありません。

指数関数の重要な性質は、ここでもう一度思い出していただきたいのですが、「加速」という概念に関わっています。

指数関数の最大の特徴を、一定時間の間に増える「量」が増大すると捉えても、または一定の量が増加するまでの「時間」が短くなると捉えても、どちらでも構いません。どちらにせよ、ここでのテーマは「加速」です。

再び人口の例を使って説明します。世界人口が最初100万人で、1年の人口成長率がわずか1%だと仮定しましょう。すると、世界人口がまず10億人に達するまでには694年を必要とします。しかし、次に20億人に到達するまでには次の100年しか必要としませんし、30億人に達するのはその41年後です。更に10億人ずつ増加する期間は、29年、22年で、そしてついにはたった18年で世界人口は60億人に到達します。つまり、地球上で人口が10億人増加するために必要な時間はどんどん短くなっていくということです。これが、「加速」です。

次のグラフは世界の石油消費量です。石油は、おそらく他のどんな資源よりも重要なものです。過去の石油消費量の増加率はもう少し速く、年3%程度でした。そのため、わずか150年程度の横軸で「ホッケースティック」の形を描くことができます。そして、石油消費量のグラフでも縦軸の高さを固定することができます。なぜならば、地球で最大どれだけの石油を採掘できるのか、ある程度まで正確に計算できるからです。だから、繰り返しますが、指数関数の「曲り角」は、私たちに非常に関係の深い、重要なイベントなのです。

さて、これはアメリカ合衆国のマネーサプライのグラフです。時代によって5%から18%の驚くべき高成長率を示しています。そのため、ホッケースティック効果を描くのに、たった数十年しか必要としません。

そして、これは世界の水消費量、絶滅種数、漁業生産量と森林被覆率の喪失量です。これらの全てが限りある資源であり、また私たちの生存に不可欠な資源でもあります。そして、数多くの重要資源の限界に近づいています。

そして、赤い丸の地点が私たちが生きている世界です。もし、社会の変化のペースが加速しているように感じているならば、これがその理由です。指数的成長を元にした人類の貨幣システムと資源利用は、ついに確実な物理的限界に達しようとしています。私たちは、まさにその瞬間に居合わせています。

そして、これらのグラフの背後で、個々のグラフの個々の線を描いているのは、この地球上に存在する数多くの人々の生活なのです。

個々のグラフを一度に取り上げれば、その中のどれか1つだけが聡明な人々の関心を引くかもしれません。しかし、これらのグラフは、実際には全てが繋がって関連しているのだと理解しなければなりません。全ては複合的なグラフであり、複合的な力によって動作しているのです。

ある特定の問題に取り組み、それを解くためには、今示したグラフだけではなく、ここで取り上げなかったものについても、他の問題とどう関わっているか理解する必要があります。なぜならば、全ては関係し重なり合っているからです。

私たちが、お金から人口から絶滅種数までの、あらゆる指数関数の曲り角に居るということは、私たち自身と後の世代の生存に対して、重大な意味を持っています。

この事実にもっと注意しなければならないと思います。

上記のグラフをもっと理解するために、更に分かりやすい例を挙げましょう。第四章「複利という問題」に進んでください。



脚注

  1. 訳注 2008年当時 []
  2. 訳注: ある環境で人間が何人生活できるかを表す数値 []